METAFIVEのライヴにすでに欠かせない存在となっているのがウェブデザイナー/インターフェイスデザイナーの中村勇吾のVJだ。最小限の要素とエフェクト、生きているようなキネティック・タイポグラフィ。観る人の目をステージに釘付けにするその映像の数々は、はたしてどのように生まれたのか。『METALIVE』の裏側に迫る。
クラフトワークのライヴで気付いたVJのやり方
── 今回のMETAFIVEの映像は、2014年11月に日本未来科学館で行われた「攻殻機動隊ARISE」の関連イベント「GHOST IN THE SHELL ARISE“border:less experience”」からの連続性を感じさせました。あの時もVJが中村さんでしたね。
小山田 |
あの時がVJ初めて?
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中村 |
そうです。
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小山田 |
salyu×salyuもやってもらったし、METAFIVEも初めてやってもらって。
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中村 |
嬉しかったですよ。
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小山田 |
僕もすごい嬉しかった。
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── 中村さんは初めてのVJをどのようにしようと考えていたんでしょうか?
中村 |
僕はクラブとかにほとんど行かないんで、気合一発のVJとか見たことなくて。たまに見ると、カシャカシャって映像が入れ代わり立ち代わり、5分後またこれ来たーみたいな。VJってそういうことしなきゃいけないのかな、やり方よくわかんないなと思ってたんです。映像の素材もないのでどうしようかなって時に……ド忘れしたんですけど、テクノの重鎮の、元祖の、おじいさんの、4人組。
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小山田 |
クラフトワーク?(笑)
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中村 |
それです(笑)。クラフトワークのライヴに行ったんです。4人立ってる後ろに、最初からプログラムされた映像がバーンと流れてて、わりとすごい全部お膳立てされてるライヴだったんですよ。僕は素人ながら、このおじいちゃん4人は何やってんのかな、本当に弾いてるのかな、とか考えてて(笑)。バックの映像は発色が綺麗な、ジェームズ・タレルっぽい、わりと1曲ずつ作りこんだもので、「あ、こういうのだったらいいんじゃないかな」って、そういう風に考えてました。VJと言いながら、映像の展開をちゃんと作ってやるみたいな。
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── 今回のVJの実作業はどこまでがリアルタイムなのか?は観ていて知りたくなりました。
中村 |
最初の「攻殻機動隊ARISE」の時はライヴ的にやってたんです。一応プログラムを組んでリアルタイムで動くようにしてて、聴きながらトン、トトトン!って押してたんですけど、全然リズムを追えないことがわかって(笑)。あの、salyu×salyuのタン・タ・タタタタって曲……。
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小山田 |
「s(o)un(d)beams」だ。
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中村 |
あの曲、リズムがものすごく変則的なんですよ。で、リアルタイムは無理だってわかった(笑)。それで次からは、ほぼほぼ作りこむって切り替えたんです。3、2、3・2・1・ハイ!ってキーを叩いたら、もう(腕を組むポーズ)。
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小山田 |
(笑)。
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中村 |
たまにちょっとズレてるかな、ってなったらちょっと遅らせたりして。だから小山田さんに最初、ライヴの演奏ってどれくらい揺らぐんですか?って聞いてたんですけど、「全然揺らがないよ」ってことだったんで。
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小山田 |
METAFIVEは基本、クリックを聞いて全部同期モノと一緒に演奏してるんで、絶対ズレないんですよ、演奏は。だからそういうのと親和性が高いっていうか。
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中村 |
だから安心してできました。準備がすべて。
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小山田 |
でもリハでテンポを1ズラしたっていうのを勇吾さんに言うの忘れちゃったりしてて。
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中村 |
「あれ、なんか今日いつもよりズレるなあ」って(笑)。BPMを1速めてたのか……って。でも広い会場だとあってるかわからないんですよね。一番後ろで観てるから。EXシアター六本木だと、前と後ろで100mくらい距離がありますよね。音速(音楽)と光速(映像)のスピードの違いを考慮してなかったから、ナマの音を聴きながらだと、あとから観て2フレームずつズレてたり。「そうか、音速を考慮するの忘れてた」って。
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── ヘッドホンはされないんですか?
中村 |
ヘッドホンをするって概念があまりなかったんです(笑)。クリック音の意味をわかってなくて(笑)。音楽とミックスされてわからなくなるからナマがいいなってやってたらズレてた(笑)。
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小山田 |
パッと見はわからないよね。
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中村 |
結構ジャストで作ってたから、じゃあどのオーディエンスに向けてジャストで作ればいいんだろう?って思って、一番熱気がある人は一番前の人だろうから、ちょっと早めに出せばいいかなとか、そういう調整をやってました。
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METAFIVEの音とよくあってるなと思う
── METAFIVEのメンバーに「中村勇吾さんでどうか」と提案した時、どんな反応でしたか?
小山田 |
みんなめちゃめちゃ喜んでました。
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中村 |
僕、砂原さんの昔の「LOVEBEAT」のビデオを社会人なり立てくらいに観てて、当時すごく新鮮でした。幾何学的なものが動いてるだけで成立する。そういうのを観てたんで、METAFIVEの話をいただいた時は「砂原さんもいる」って興奮しました。
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小山田 |
模様が動くヤツだよね。あれは小島淳二(teevee graphics)さんかな。
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中村 |
METAFIVEでも「Luv U Tokio」の映像をやってましたね。
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小山田 |
死刑!ってヤツね(笑)。
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中村 |
とにかく「LOVEBEAT」の映像は好きでしたね。まだ映像の仕事はしてないのに「なんか知らないけどやられた!」って思ってました、当時。久しぶりに観直したら「やっぱいいなあ」って。
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小山田 |
勇吾さんはまりんのソロとすごく合いそうだよね。
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── 幾何学的なもので成立させるという方向性は勇吾さんと親和性が高そうです。
中村 |
僕はあまりそれ以外できないっていうのもあるんですけど(笑)。なんかこう、PVって観てると音楽があんまり聴こえない。聴覚より視覚のほうが強いから、もっと(映像が)弱いほうがいいんじゃないかと常々思っていて。理想を言うと、音楽の聴き方にちょっとだけ補助線を与える、グリッドを与える、そういうのがいいんじゃないかと。
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小山田 |
説明しすぎてないところがいいなと思ってて。あと勇吾さんの映像は動きが気持ちいいんですよね。生きものじゃないのが生きてるみたいな、あの感じがいいなあって。やっぱ最小限で、シンプルで、グラフィカルなもので、METAFIVEの音とよくあってるなと思う。今回のはすごくハマったなって感じがします。
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── フォントの選択も小山田さんの好みと合うのでは?
小山田 |
そうなの、何も言わなくてもわかるから。
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中村 |
とりあえずHelveticaじゃねえの?みたいな(笑)。とくに理由もなければって(笑)。
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小山田 |
(笑)余計なことをしないっていうね。
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中村 |
余計な回路がないですね。
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小山田 |
それでちょっとだけ気が利いてるっていうのが、しっくりくるんだよね。
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中村 |
フォントのこととか考えたくないんですよね。フォントって一杯あるじゃないですか。真剣に考えようとしたら答えなんていつまで経っても見つからないから、やっぱHelveticaでいいんじゃないかって(笑)。そういう感じじゃないですかね。みんなも良いって言ってるし、って(笑)。
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小山田 |
「みんなも良いって言ってるし」(笑)。名言だね(笑)。
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中村 |
(笑)やっぱり僕はグラフィックデザインをそんなに経てないし、変数を増やすと制御できなくなるなっていうのがあるので、使えるセットは制限したい。「おやつは300円まで」の中で考えるほうがやりやすい。自分の腕なりのセットを組んでるんですよね。VJの映像はうちの事務所(tha ltd.)のみんなで作ってるんですが、1曲1アルゴリズムって決めて、そのアルゴリズムで1曲ぶん5分はもつもの、ってルールでやってます。
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── 映像で物語を作るわけではなく、一歩手前の生理的な気持ちよさへのこだわりを感じます。
中村 |
歌詞とかって実はあんまり読まない。こんなにやっててもどういうことを言ってるのかわかってないんです。「Turn Turn」は回るんだろうとか、「Whiteout」っていったら雪じゃないか、とか(笑)。うちの事務所で3~4人で作ってるんですけど、みんな歌詞を理解してないと思います。音の感じと、タイトル。
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ここまで何も言わないでも大丈夫っていうのがすごい
小山田 |
「Turn Turn」は最近までみんな気づいてなかったんだけど、地球が回る中にいろんな画像が出てくるところで、サブリミナルで各メンバーのアルバムのジャケットが入ってるんだよね。
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中村 |
そうなんです。もともとは「攻殻機動隊ARISE」の時のために作った映像で、あの時は日本未来科学館でやったんですけど、未来館に地球儀があるんですよね。それを草薙素子がハックしたって設定で、地球儀がハックされた映像を作ってたんですよ。それを「Turn Turn」だから回そうって。その時は「攻殻機動隊」の画像を入れてたんですけど、それが終わったから、次はみなさんのアルバムを入れるのが面白いんじゃないかって。
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── 「Albore」の平面分割の映像は見覚えがありました。
中村 |
あれはsalyu×salyuで使ったのを持ってきて再利用してます。この曲に合ってるんじゃないかなって。実は途中まで別のものを作ってたんですけど、よくなる兆しが見えなくて。だから発想を変えたんです。
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小山田 |
たしかsalyu×salyuの「奴隷」って曲で使ってたんだよね。salyuはもうやってないからもったいないもんね。
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中村 |
曲の感じというか、salyuで「んーー……きらい!」ってあるじゃないですか。そこと似た瞬間があったんですよ、「シャカ!ッシャカ!」ってところ。あ、これじゃない?って。
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── リズムがはっきりしたもののほうが作りやすいっていう好みはあるんですか?
中村 |
構造がはっきりしてるもののほうがやりやすいってことはあるんですけど、それだと意外と相乗効果的なものが出ない感じがありますね。ちょうどすぎるというか。METAFIVEは、小山田さんのソロと比べると、いろんな音が鳴ってますよね。だから難しいな、どのグリッドにタイミングをあわせるのかなって思ってたんですが、音と映像を一緒に流してみると、作ってる人間が観た感じでは、面白い。「Whiteout」はまさにどういう構成……?って悩みながらやってましたけど、何かしら出会いがあったり、なかったり。
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── バックにメンバーの演奏シーンが使われている時のVJチームの役割は?
中村 |
なんとなくエフェクトをかけてます。カメラで撮って出すとどうしても時間差でズレちゃうんですよね。最初は機器を変えてズレにくくしたんですけど、やっぱりズレるなって思いながら、残念な顔をしながらステージを見てます(笑)。
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小山田 |
Blu-rayではかなり修正してるんだけどね。カメラで撮った映像を音にあわせて。そこを直さないと気持ち悪いんだよね。鳴ってる音と全然違うっていう。
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中村 |
そうなんですよ、ドラムの演奏してるところとか、すごく。あとテイさんが手元のビデオで撮ってる時って、俺らはわかってるけどみんなはわかってるかな?って心配したりして(笑)。テイさんにスポットライト当てたほうがいいんじゃないか?って、会話をしてます(笑)。
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── 全体的に色をあまり使わないというのは打ち合わせたわけではないんですか?
小山田 |
何もないよね。
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中村 |
そうですね、見事に何もない。
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小山田 |
「よろしく。以上」って。
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中村 |
ステージ上のモニターで見てもあんまり伝わらないというか、人に投射されて、下の方はふわふわっとしてるっていう設定で作ったので、メンバーに確認する時に、どう見せようかな、ここらへんの雰囲気も見せたらいいのかなって思ってたら、もうナマでいきなり、事後確認っていう。小山田さんだけ、リハーサルでギターを弾きながらスクリーンを見てて、「ちらっと観たよ」ってあとで言われたんですよね。「いいじゃん」「ありがとうございます」って。
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小山田 |
演ってる時しか見れないから。他の人は鍵盤だから手元を見なきゃいけないとか、ドラムだったり、歌わなきゃとかで、後ろを振り向く余裕がたぶんなくて。僕はギターだったから結構見れるんで。でも演奏してるから全体はあんまりよく見えないし、ちゃんと観たのは今回のBlu-rayで初めてなんですよ。
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── じゃあ他のメンバーの方も全員Blu-rayでようやく勇吾さんのVJの全貌を観たんですか?
小山田 |
たぶんそうだと思う。僕よりそうだと思う(笑)。自分のことをやる時に、ここまで何も言わないでも大丈夫っていうのがすごいなっていうか。信頼はすごい置いてるので。
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中村 |
結構時間がギリギリで作ってるっていうのがあるので、見せ始めたらややこしくなっていたかもしれないですね。
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小山田 |
でも丸投げで安心できるっていう。
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── 小山田さん以外のメンバーに感想は聞けました?
中村 |
あんまり……やったあとはシュッと帰るんで。
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小山田 |
打ち上げとかも来ないもんね。
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中村 |
いや、楽屋とか行くとちょっと緊張するんですよ。「楽屋だ……ドラマとかで見るやつだ」って(笑)。なんかこう、終わった後って、綺麗なお姉さんと話してたりするじゃないですか。そこにまさか「VJどうでした?」なんて聞きにいけないですよ(笑)。しかも後ろの映像を見れてない人達に(笑)。「あれ、そんなに話すことないな……帰るか」って(笑)。一応、小山田さんには「まあまあイケました!」って報告に行ったんですけど。あとはあんまりやることないなって(笑)。
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小山田 |
でもみんな大絶賛だったよ。まりんはとくに。
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作りこむ作品とライヴの違いとは?
── 勇吾さんは今後LIVE VJの仕事が増えていくんじゃないでしょうか?
中村 |
どうでしょうね、面白いことができる仕事ならぜひ、って感じです。
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小山田 |
勇吾さんはMETAFIVE以降、VJは他にやってないの?
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中村 |
やってないですね。VJらしきことでいうと、ISSEY MIYAKEの三宅さんが青森大学の男子新体操部を気に入ってて、その男子新体操部が踊る公演のライヴ演出みたいなのはやりました。新体操のコートにプロジェクションマッピングで、着地するとパッとインクが飛び散る、みたいな感じの。ただ、ライヴものは緊張しちゃうんですよね。僕らの同業でRhizomatiksというグループがいて、代表の齋藤(精一)さんに「ライヴって緊張するんだけどどうやったらいいの?」って聞いたんですよ。そしたら「失敗した時のバックアッププランを完璧にしたら緊張しない」って言われて。100か0かでやったらメンタルがもたないからそれはダメだ、って言われて、「そっか!」って(笑)。
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── 勇吾さんが普段やっているウェブの世界は、始まりがあって終わりがあるって映像作りじゃないので、音楽の映像の作り方とはだいぶん違っていますよね。
中村 |
やっぱり僕はライヴものよりは編集ものが好きなんです。ちゃんと作りこんだもの。音楽でも、ライヴに行くより作品、これがベスト!ってちゃんと作られたものを出されたほうがいいっていうか、詰め切れてないと気持ち悪い。そういうのって小山田さんにはないですか? ライヴをやるのとアルバムを作るのでは違いますよね。
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小山田 |
うーん、別物ですよね。ライヴのほうがやった感がある、仕事した感じしないですか? 「オレ働いたな」って気分になれるっていうか(笑)。レコーディング作業だと今日もこれくらい進んだなって、終わりもないし。ライヴは今日は働いたぞ!ってなる。
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中村 |
たしかに、打ち上げ感が違いますね。うちの会社もみんなまったりと編集的なことをし続けてて、盛り上がったりはしないんですけど、「攻殻機動隊ARISE」の時が初めてライヴ感ある感じだったんですよ。流石にみんな盛り上がって、仕事のあとに居酒屋とかで「イエーイ!カンパーイ!」ってなって(笑)。「あれ、こんな俺らもいるんだ?」って(笑)。
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小山田 |
新しい自分がいたんだ(笑)。
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中村 |
実際の作業はボタンをクリックしてるだけなんですけど(笑)。なんかやったぞ!ってなりましたね。
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(取材・構成=Barbora & 写真=江森丈晃)