いわゆる“テクノポップ”以後の日本のポップ・ミュージック史における重要人物たちによるドリームチーム＝METAFIVE。そのファースト・アルバム『META』は、メンバー6人の才能とセンスとキャリアがどのように結び合いながら完成したのか？　今回は、言わずと知れたYMOのメンバーでMETAFIVEの発起人である高橋幸宏と、彼ともしばしば共演してきたコーネリアスこと小山田圭吾、近年はソロから作詞提供まで活動の幅を広げているLEO今井による鼎談の前編をお届けしよう。

── 2016年1月にファースト・アルバム『META』が発売されるわけですが、そもそもMETAFIVEが結成されたいきさつというと……。

高橋	もともと、去年（14年）1月にEX THEATER ROPPONGIでやったコンサートのためのバンドだったんですよ。
小山田	え、去年でしたっけ？
高橋	あれは去年なんだよね。
LEO	ほぼ2年前ですけど、一応、去年になりますね。
高橋	EX THEATERが13年の11月にオープンして、そこから数ヶ月、こけら落とし月間みたいな時期があったんですけど、それに関わっている知り合いからYMO関係で何かやってほしいとお願いされていたんですね。で、12月に教授（坂本龍一）と細野（晴臣）さんがライヴをやって、そこに僕や小山田君もゲストで出たりしたんだけど、僕自身のライヴも何かやってもらえないかって言われていたので、最近やっていないようなことがしたいなと。そこで、METAFIVEの僕以外の5人に声をかけてみたら、奇跡のようにみんなのスケジュールが空いていたんです。だから、そもそもはそのライヴのためだけに集まったバンドなんですよ。そのライブの前に、みんなでゴハンを食べながらミーティングをしたんですけど、YMOの曲をカバーしたり、自分がカバーしたブライアン・イーノの曲をLEO君が歌ったりするのが面白いんじゃないかとか、メンバーといろいろ話してるうちに、「一応、バンド名を考えましょうか」ということになったので、そのときは“高橋幸宏＆METAFIVE”という名前でライヴをしましたね。

── あのライヴは“テクノ・リサイタル”と銘打たれていて、テクノッポップを再現するものでしたよね。

高橋	そうそう、半分パロディっぽい感じでスタートして、わりと忠実にテクノポップを再現していたんですけど、ボブ・ディランの「Don't Think Twice, It's All Right」をやったりもして（笑）。とにかくあのライヴは、まりん（砂原良徳）が個人的な趣味でYMOを完璧に再現したオケをいろいろ持っていたので、わりとすんなりできた……いや、すんなりでもないか。結構、リハをやったからね。テイ君もバンド形式は久しぶりだったので、多少は大変だったと思うし。その先のことは全然決めていなかったんですが、TAICOCLUB（14年5月31日・6日1日）に誘われたりして出演しましたが、バンドとして大きな進化はなかったんです。ただ、その後、『攻殻機動隊ARISE』の音楽をやっていた小山田君の声がけで、あのアニメのエンディング・テーマ曲をMETAFIVEが担当することになり、みんなで一曲つくったんです。小山田君が曲をつくり、詞をLEO君と僕が書いて、そのデータをみんなで回しながら……という共同作業っぽいことを初めてして、「Split Spirit」（同年9月リリース）って曲ができあがった。さらに、小山田君がオーガナイズした『攻殻～』のイベント（同年11月に開催された「SPACE SHOWER TV開局25周年×攻殻機動隊25周年×日本科学未来館 GHOST IN THE SHELL ARISE“border:less experience”sounds curated by CORNELIUS」）があって、そこでのMETAFIVEのステージにすごくいい感触があって、後でその音源（Blu-ray『攻殻機動隊 ARISE ALTERNATIVE ARCHITECTURE / 新劇場版 Music Clips : music by Cornelius』に収録）を聴いてみてもよかったので、「あ、なんかできるかもしれないな」って僕は内心、思ったんです。でも、そこから先のことを覚えていなくて……。
小山田	僕もよくわかんない（笑）。
高橋	みんな、わからないんだよね。誰が今回のアルバムをつくろうと言い出したのかが本当に謎で。

── 幸宏さんが言い出したのかと思いましたが。

高橋	いや、僕じゃないかと……。アルバムのレコーディングをやろうなんて大それたことは思ってなかったんだけど、なんとなくそういう話になって、たしか今年（15年）の2月に一回集まって食事をしたんです。そのときに、なぜかゴンちゃん（ゴンドウトモヒコ）がデモテープを持ってきて、みんなに聴かせてくれたんだけど、誰も感想を言わずシーンとしちゃって（笑）。
LEO	かなりラフなデモでして……。
小山田	「え、これどうやるの!?」って感じたので（笑）。
高橋	でも、そのデモが元になっている曲も今回のアルバムに入っているから、そんなラフなデモでもみんなでつくるとどんどん進化するのがバンドのすごさだなって、改めて思った。とにかく、2月にみんなで集まったときはバンド名を“METAFIVE”に決めたような気がするけど、アルバムをつくることになった経緯はやっぱりよく覚えていない……。

今もバンドのコンセプトはない

── いずれにせよ、アルバムをつくることで話がまとまったということは、先述のTAICOCLUBや『攻殻～』のイベントのほか、WORLD HAPPINESSなどで何度かライヴを重ねる中で、何か手応えみたいなものがあったのでしょうか？

高橋	テイ君なんかは昔、ディー・ライトでのライブ活動が嫌になって抜けたので、「今さらバンドなんて……」って思ってたけど、METAFIVEでライブをやってみたら楽しかったらしいんですよね。僕はやっぱり、『攻殻～』のイベントのときに何か見えたところがあったかな。LEO君がリード・ボーカルをやるといいだろうなと思う曲があったり。それと、『SUNNY』（11年）、『LUCKY』（13 年）、『CUTE』（15年）というテイ君のソロ・アルバムに「The Burning Plain」とか「Radio」, 「Luv Pandemic」といった僕がリード・ボーカルをやった曲が入っていたのも大きかった。そういうことを経て、今回の『META』のヴィジョンが見えてきたというか。
小山田	僕も、『攻殻～』のイベントのライヴがすごくよかったんですよね。そもそも僕が「Split Spirit」でみんなを誘って始まったことなので、そのライヴ音源のミックスとかも立ち会っていたんですけど、そうしたら最初の頃より随分とまとまっていて、バンドっぽくなってるなぁと。なので、またチャンスがあればMETAFIVEで曲をつくりたいなと思っていたら、わりとすぐにアルバムの話が動き出して。
LEO	そんなに数は多くないけど、フェスとかでライヴを何回かやった後、確かに『攻殻～』のイベントのときにバンドっぽくなったと思いましたね。ただ、最初のテクノ・リサイタルのときも、少なくとも僕には刺激的で楽しかったし、意外と一体感はあったなぁと。
高橋	そうそう、想像したよりは一体感があったね。

── そういう一体感を出すために、これまでバンドとしてのコンセプトをみなさんで明文化したりしたことはあったんですか？

LEO	それはなかったですね。
高橋	実を言うと、今でもコンセプトはない（笑）。でも、バンドとしてライヴごとに進化し続ければいいと思うんですよ。
小山田	最初のライヴはワンマンで時間が結構長かったので、テクノポップ的な曲と、幸宏さんが最近やっているようなアコースティック的な曲が混在していたんですけど、その後のフェスとかのセットリストは短かったので、テクノポップのほうに寄っていったというか。テイさんとかまりんとかもいるし、そっち方面がこのバンドのスタイルに向いていて、だんだん音楽の方向性が固まっていったのかもしれないですね。
高橋	しかし、ライヴではまりんがあれだけキーボードでベースを弾くとは……。しかも、どんどん巧くなって、すごいプレイヤーになっているから、ビックリしちゃった。それでいて、彼はDJでもあるわけで。
小山田	やっぱり、このバンドの肝はまりんですね（笑）。まりんがライブで演奏しているイメージってあんまりないと思うけど　、METAFIVEのライブではかなり演奏しているので、そんな彼のプレイによってライヴ感が生まれている気がします。
高橋	まりんはあんまり間違えないしね。自分ではよく間違えたって言うけど、僕のミスに比べたら全然少ないと思う。じゃあ、テイ君は何もやっていないのかというと、実は彼がいろいろ音をイジってくれたりすることによって、毎回バンドの演奏が違ってくるんですよ。そういう彼のDJっぽい部分も、ライヴ感を生み出しているんじゃないかな。DJといったって、毎度同じことをやるタイプと、プレイするたびに変わっていくタイプの人がいるだろうけど、テイ君は即興性があって面白いですね。まあ、頭の中でもイメージしつつやっているんでしょうが。
小山田	テイさんの存在が、普通のバンドと一番違うところですよね。実際、テイさんはいろんな音を出して“生演奏”をしている。
高橋	本人としては、何かやってるのを知られることに抵抗があるらしく、自分ではそのことを言いたがらないですけど（笑）、実はすごくやっているんです。そういえば、「Don't Move」のミュージック・ビデオを観た僕のツイッターのフォロワーが「なぜテイさんだけ人形で、本人は参加していないんですか？」って反応したりしてるけど、「ここにいるじゃん！」と。あれ、テイ君は隣の別室で同時演奏をしているんですよ。マネキンの前の機材がちょこっとしかないのは、テイ君がそっちの部屋に機材をいっぱい持っていっちゃったからなんです（笑）。

変化していった「Don't Move」のメロディ

── METAFIVEの6人はそれぞれキャリアがあるわけですが、今回のアルバムは一人2曲ずつ担当することになっていたと聞いています。あるメンバーがバックトラックを制作した後、それに他のメンバーが肉づけしていったと。

小山田	なんとなくイニシアチヴをとるのは一人2曲くらいと決めていたんですけど、僕は『攻殻～』の「Split Spirit」で一曲ノルマをもうこなしていた（笑）。「Radio」も、もともとテイさんの曲だし、幸宏さんが歌っていたこともあって、METAFIVEのライヴでは定番ナンバーになっていましたよね。だから、その2曲はすでにあったんです。
高橋	例えば、YMOとかビートニクスの頃のように、スタジオでみんなで曲をつくるという感じでもなかったんですよね。かといって、デモテープをつくるとか、プリプロをやるのともまた違って。とにかく一人2曲っていうのは6人で決めたんですけど、今回はみんな、自分がつくった元の曲を他のメンバーに投げかけていくという作業が一番楽しかったみたいですね。でも僕は、スケジュールが立て込んできたこともあって、ある程度つくり込んだものをみんなに投げちゃったんです。だから、Aメロ、Bメロ、サビとかをどう入れ替えてもらってもいいと伝えて渡したんだけど、結局、構成はあんまり変わらなくて……。それが、反省点ですね。小山田君が担当した「Don't Move」なんて、最初に元のものを聴いたとき、どうなるのか全然予想できなくて、最終的にまさかあのような曲になるとは思わなかった。小山田君本人もそれは同じかもしれない。ただ、元の曲にメロディがなかったから、そのメロディ次第だなと思っていましたね。でも実は、小山田君はもともとメロディを考えていたらしくて、それを抜いたものをみんなに投げてみたと。まず、メロディと歌詞は、LEO君がをある程度つくった後、テイ君がサビのアディアを出したりして二人でキャッチボールしながら煮詰めていったんですね。で、今度はそこにまりんがいろんな音を被せたり、僕が生ドラムを入れたり……。そのへんになると、最初より明らかにずいぶん変化してきて、なんとなく先が見えてきたので、みんなでスタジオに集まって歌入れとかダビングとかをしていくようになりましたね。
小山田	僕は「Split Spirit」で一回経験していたので、完成しすぎたデモを提示して、みんながそこにオケをいろいろ入れていくと、お皿からはみ出してしまうのはわかっていたんですよね（笑）。だから、「Don't Move」の元のものは、骨格だけをつくったというか。リズムとベース、ギター、構成だけ決めていた。本当は、幸宏さんが言ったようにもともと自分でメロディを入れていたんだけど、そうするとあまりにも自分っぽくなりすぎる気がしたんですよ。せっかくバンドでやるんだから、みんなの要素をもっと混ぜていきたいなと思って、歌が何もはいっていない状態にしたんです。それが最初にLEO君に渡って、その後、テイさんが手をつけるようになって……。その頃は、幸宏さんとゴンちゃんがツアーで忙しくて、僕とテイさんとLEO君がわりと暇だったんです（笑）。
高橋	ツアー先で僕はゴンちゃんとほとんど一緒にいただけど、メールで送られてくる「Don't Move」の途中段階のデータを聴くと、日増しに曲になっていくのがわかったんですよね。それに僕たちは他人事みたいにワクワクしていた（笑）。
小山田	今回、タイミングによって作業する人が変わっていきましたよね。だから、曲によってメンバーの関わり方も違って。でも、それは別に狙ってたわけじゃない。「Don't Move」に関しては、たまたまその時期に空いていた僕とテイさんとLEO君が最初に作業を進めていったんです。
LEO	小山田さんから最初に渡されたデモが、展開がすごく複雑で、動き回っている感じだったんですよね。
高橋	まあ、最終的に展開は複雑なままなんですけどね。どこからが普通の4分の4拍子かわからなくなるくらい、2拍多い箇所とかもあって、譜面に起こしたら大変だろうなと。だからLEO君は、「ちょっと動きすぎだから動くな」ということで「Don't Move」を詞のキーワードにしたらしいんだよね。
LEO	そうですね、それをキーワードにしながら、テイさんと僕で歌詞に内容を膨らませていきましたね。で、テイさんから「トレンドに乗っかるな」みたいなラインも出てきたと。
高橋	小山田君はもともと、Aメロが何小説あって、ここからサビになる……とか意識せずにデモをつくったんだよね？
LEO	でも、小山田さんのデモにマーカーが入っていましたよ。Aメロ、Bメロって。
小山田	あれは、僕がもともと考えていた仮メロを消した名残なんだよね（笑）。
LEO	ああ、そういうことだったんですか。僕はそのAメロとかに沿ってメロディと詞を考えていたんですけど、テイさんがそれを完全に無視して（笑）。
小山田	そうそう、無視してたよね。
LEO	だけど、それでまた面白い化学反応が起きたりしたんですよね。そんな感じでどんどん変わっていきました。
小山田	だから、最終的な展開は僕がイメージしていたのとだいぶ違った。最初はミニマルなワンコード・ファンクみたいな感じを想像していたんですよ。
高橋	同じことをずっと繰り返していくような？
小山田	そうそう。でも、Aメロ、Bメロとか展開がはっきりあるようなメロディがついた。
高橋	それだから、ワンコードにほとんど聴こえないもんね。
LEO	プログレッシヴな感じになりましたよね。まあ、実際ちょっと戸惑ったこともあったんですけど（笑）、やっていくうちに面白くなりましたね。

METAFIVEのファースト・アルバム『META』は、メンバー6人の才能とセンスとキャリアがどのように結び合いながら完成したのかーー。高橋幸宏、小山田圭吾、LEO今井による鼎談の前編では、METAFIVEの成り立ちから、すでにミュージック・ヴィデオが話題となっている「Don't Move」が生まれる過程まで語られた。後編では、三者のバンド論や“YMOの影”、そして早くもMETAFIVEの“次”のヴィジョンまで話が及んだのだった。

音がお皿から溢れださないために

── 「Don't Move」の制作過程の序盤は小山田さん、テイさん、LEOさんが主に作業をしていたという話を前編で伺いましたが、その頃に3人で集まって話し合ったりもしたんですか？

小山田	いやいや、ほとんどインターネットを介してですね。メールで大体やり取りしていました。全員が集まったのも、レコーディングの最後の4、5日くらいだと思う。
高橋	でも、テイ君とLEO君は飲みながら話したりもしたんでしょ？
LEO	そうですね。二人で歌詞を書く場合、やっぱり会ったほうが早いですから。僕が書いた詞に対して、テイさんがそれぞれの言葉を簡単にしていったり。特に「Don't Move」と「Luv U Tokio」に関しては、テイさんと話し合って詞を固めていきましたね。
高橋	クラシックの時代はメロディをつくった人が作曲家になり、コードをつけたりするのはアレンジと考えられたけど、ポップ・ミュージックの世界ではその曲の屋台骨をつくった人の持ち分になるので、昔とは曲をつくるという概念が大幅に違うんですよ。例えば、メロディをいくらでもつけられるエレクトロニカのインスト曲とかいっぱいあるじゃないですか。かといって、デヴィッド・シルヴィアンが歌った教授の映画『戦場のメリークリスマス』テーマ曲「メリー・クリスマス ミスターローレンス」（「禁じられた色彩」）なんかは、あんまり共作になっていないと思うけど。それはともかく、曲のメロディだけを考えるなら、基本的に共作という言い方のほうが合っているんじゃないかな。まあ、ソロの場合は全部自分の作品になるので、屋台骨もメロディもいろいろ自分で手がけちゃうものだけど、METAFIVEみたいなバンドをやるんだったら……。今回の僕の大きな反省点はやっぱり、もうちょっと作り込んでいないものをみんなに投げたほうがよかったなぁと。さっき小山田君が言ったように、僕が担当した2曲は最終的に完全にお皿から溢れてしまったので（笑）。音が多すぎて、どこか削らなきゃならなかった。でも、僕の判断で「これはいらない、あれもいらない」って音を削ると、自分の曲になっちゃうから、そのへんのことは大体まりんに任せましたね。彼がすごく冷静にまとめてくれたので。僕は今までバンドをいっぱいやってきたけど、今回は自分が前に全然出ていかなくてもよかったから、そういう意味ではバランスがよかったと思う。ただ、まりん（砂原良徳）のマスタリングやミックスに関しては、「そこまでこだわるの!?」って思ったことが何度かあって。

── 具体的に、まりんさんはどうこだわっていたのでしょうか？

高橋	みんなで集まったときに、「最後のマスタリングはまりんがやるのがいいんじゃない？」って話になったんですよね。そうしたら、本人は「一応やってみますけど、もしダメだった場合のために、●●さんとか▲▲さんとかを候補として挙げておきます」と。その後、まりんは実際にマスタリングをちょっとやってみたんですけど……。
LEO	良い結果が得られませんでした」ってまりんさんからメールが来ましたね（笑）。
高橋	で、「ミックスしてくれた高山徹君にマスタリングもお願いするのが一番いいんじゃないですか？」とまりんは提案したので、高山君がやることになったんですが……。普通マスタリングのチェックって、エンジニアに「ここはもうちょっとこうして」とか指示するくらいで、大体一日で済むものなんですよね。家に持ち帰ってチェックとかできないし。でも、彼は自分のスタジオで音源をイジれるので、他のメンバーの意見をあれこれまとめているうちに、最終的に自分でマスタリングをやっちゃった（笑）。

「一発当ててやろうぜ！」という気負いはない

── なるほど。ところで、そんなまりんさんにも同じことが言えるかもしれませんが、小山田さんはバンドの一員としてライヴをしたりアルバムをつくったりするのが、かなり久しぶりだったんじゃないですか？

小山田	久しぶりというか、ほぼほぼ初めてです。
高橋	ほぼほぼっていうのがよくわかんないけど（笑）。
小山田	フリッパーズ・ギターは、あんまりバンドじゃなかったので。だから、METAFIVEは初めての感覚ですね。
高橋	僕はバンドばっかりやってきたけど、どれもMETAFIVEのような関係性じゃなくて、運命共同体みたいな感じだったんですよね。（サディスティック・）ミカ・バンドもそうだし、YMOもしかり。テイ君もバンド・アレルギーみたいなものはあっただろうけど、METAFIVEのようなバンドだったらやりやすいと思う。10人のゲストに参加してもらっても、自分のアルバムだったら自分が最終的に責任とるじゃないですか。でも、METAFIVEの場合は責任が6分の1になりますから。まあ、「この曲は君が担当したんだから君が責任とってよ！」って言うこともできるわけですが（笑）、そんなことは誰も言い出さなかったし、曲をみんなで回しながらつくるなかで、化学反応がどんどん起きていったんです。それは、メタモルフォーゼ（変形）という言葉がバンド名の由来になっている通りだと思う。突然変異のように、あるときバンって曲になったりすることがあったんですよ。それに、ゴンちゃん（ゴンドウトモヒコ）が最初にみんなに聴かせてくれたあのデモテープが、ちゃんと曲になるなんて絶対に思わなかったもん（笑）。とにかく、どの曲もよくなっていったなぁというのがみんなの感想としてあるんじゃないかな。まりんが「もし何も変わっていなかったら、6人もいるんだから誰か『何も起きてないよ』って言い出したでしょ」と言ったことがあって、それをみんなで聞いて笑ったんですけど、幸い何も起きないってことはなかったですね。しっかり面白くなっているなあと。僕なんか、外から見ていればいいやっていう気持ちでした。
小山田	METAFIVEは、まあ、バンドではあるけど、もともとみんなソロでやっているし、プロデュース的なこともできるし、それぞれ他の活動があってのバンドなので、若者が「よっしゃ、やってやるぜ！」みたいな感じでやっているのとは違うんですよね。だから、気が楽です（笑）。
高橋	そうそう。METAFIVEはそれぞれ若かった時代が何年前か違うけど（笑）、僕が今のLEO君と同じくらいの歳の頃、つまりYMOが散解した頃は、まだ突っ張っていましたね。だから、LEO君は大人だなと思うけど、世の中に対しても、まわりの音楽に対しても、あの頃は「僕は違いますから」みたいな気持ちがいつもあったんです。でも今は、そうは思わないし、METAFIVEのみんなもそんなことは言わない。バンド内ではもちろんのこと、バンドの外に対しても「別に人は人」っていう。「あのバンドがライバルだ！」と言う必要もないんですよ。それは、すごく楽なことなんじゃないですかね。「俺たち、これで一発当ててやろうぜ！」みたいな気負いもないですし。まあ、昔からそんなことは思ったことがないけど……。だから、このバンドもどうなるかわらないですけど、とりあえず僕は「最後に一花咲かせてやろう！」なんて思っていないです（笑）。

『META』はファースト・アルバムっぽい

── これまでのお話を聞いていると、METAFIVEはバンドとは呼べるけれど、各メンバーは作曲家であると同時に、アレンジャー、プロデューサーでもあり、人によってはエンジニアのような働きもしている、と言えますよね。

高橋	最初からいろんな活動をしてきたメンバーで構成されていますからね。たぶん僕、そういうバンドは世界でも見たことがない。

── METAFIVEのような体制でつくられた音源は、ともすると散漫なものになってしまう可能性もあると思いますが、『META』は通して聴いても一本筋が通っている印象があります。それは、幸宏さんはもちろんのこと、各メンバーに“YMOの影”が感じられることと関係しているのかもしれません。

高橋	小山田君はここ数年、YMOのライヴにずっと参加してもらっているけど、青春時代にYMOを特によく聴いていたのがテイ君とまりん。まあ、影響の受け方は二人で違うんですけど、今回もYMOっぽい音を入れたらしいです。ゴンちゃんもYMOのことをすごくよく知っている人で、それで僕の事務所に入ってきたくらい。だから、結果的にはみんなのそういう部分が『META』には出ているのかもしれないですけど。
小山田	YMOももちろんだけど、ニュー・ウェイヴとかエレクトロニック・ミュージックとかその合体したものとか、そういう音楽が基本的にみんなのバックボーンになっているんですよね。幸宏さんがそんな人たちに声をかけてMETAFIVEは始まったわけだし。
高橋	世の中でYMOが流行ってたときに一番多感な中学生とか高校生だった人たちなので、みんなあの時代の音を肌で知っているというか。ただ、LEO君はまだ子どもだったから、それとはちょっと違うよね。
LEO	そうですね、高校のときは電気グルーヴの『A』とかをスゲー聴いていました（笑）。

── でも、LEOさんは細野晴臣さんの曲をカバーしたことがありますよね。

小山田	え、そうなの!?
LEO	KIMONOSで「Sports Men」をカバーしましたね。ただ、あれは僕のアイディアではなくて、向井さん（KIMONOSの相方：向井秀徳氏）ですね。80年代のポップスとかロックとかは、全体的にリアルタイムでは追っていなくて、大人になってから聴き始めたんですけど、歌うとなんかあの時代っぽくなっちゃうというか。自分でもよくわからないけど、潜在意識に当時のサウンドが刷り込まれているのかもしれません。
高橋	「LEO君がこういうタイプの曲を歌ったら、いいだろうなぁ」と思って、実際にLEO君に歌ってもらった曲なんかモロにハマりましたからね。そんなLEO君はギターもキーボードも弾けるけど、普通のバンドにしてもあんまり意味がないので、6人の他に普通のドラマーとかベーシストとかを誘うつもりはなかったんです。あと、砂原Pから「今回、ゲストはナシで！」っていう指令がはっきり出ましたし（笑）。
小山田	まあ、全員ゲストみたいなバンドだから、あえて他に入れなくてもいいんですよね。
高橋	確かに。曲によって誰かが中心になっていて、そこに他のメンバーがゲストとして参加しているような。で、ゲストのほうがイニシアチブをとっちゃうこともあるけど、最後は「あとは頼みますね」って曲を担当している人にお願いしたり（笑）。そういうことを大体の曲でやっていたから、筋が通っているようにも見えるんじゃないですかね。
LEO	あと、幸宏さんと僕の二人の声とか小山田さんのギターはほぼ全曲に入っていますよね。で、それぞれの曲の原点が違っても、全曲にみんなのアレンジが加わっていったので、結果的に一体感があったのかなと。
高橋	ただ、繰り返しになるけど、僕が担当した曲の最初のデモは音が多すぎて……。結果的に、小山田君に生ギターに差し替えてもらったり、LEO君が声をダビングしてくれたり、テイ君がシンセドラムを足してくれたりしたんだけど、まりんなんかにはデモの段階で「幸宏さん、こういう曲がつくりたいんだな」ってすぐにバレちゃったと思うんですよね。もし次があったら、僕のデモはあえて何をしたいのかわからないような骨格のものにしたいなと。そう思うと、まだまだいろんな可能性があるような気がします。
小山田	今回、6人が2曲ずつ担当したけど、曲によって誰の成分が多くて誰が少ないというのがありましたよね。しかも、みんないろんなことができる人なので、もし次をつくるとしたら、その混ぜ合わせ方とかフォーメーションの組み方とかは本当にいろいろ考えられるんじゃないかな。
高橋	ただ、砂原Pがゲストはダメだと（笑）。
小山田	でも、この間、砂原Pと話していたら、「ファースト・アルバムはメンバーだけでいろいろネタを出し合えるけど、2枚目、3枚目あたりからそれも煮詰まってくるから、ゲストをちょっと入れていくのもアリなんじゃないか」って言っていました（笑）。

── その提案に対して小山田さんはどう答えたんですか？

小山田	「そうだね」って（笑）。
高橋	ちょうどスケッチ・ショウをやっていた頃とか、YMOの後期もそうだったけど、一枚アルバムを出したときに、もう次のアルバムを考えているのは、大体いい傾向なんですよ。その瞬間、「もう疲れちゃったよ」と思うんじゃなくて、「可能性があるじゃん」ってことなので。だから、反省点が多いというのは悪いことじゃない。かといって、今回の『META』がダメかというと、思ったよりイイんですよ。矛盾しているような言い方だけど。
小山田	他の活動もしているオッさんたちが、「まあ、やってみるべ」って感じで集まってつくったようには聴こえないですよね。わりと力が入っているというか、濃ゆい一枚になっていて。そこがファースト・アルバムっぽくていいなと僕は思うんですよ。
高橋	暑苦しいくらい濃いよね。
小山田	初々しさもある気がしますね。たぶん、僕はソロとかでもこんなに勢いのあるものはつくれないと思う。
高橋	僕も絶対つくれない。まあ、つくろうともしないけど（笑）
小山田	この場所だからできることを、みんなそれぞれやった感じなんじゃないかな。

── この先のことというと、1月に2回のライヴがありますが、その構想はもう固まっているんですか？

小山田	ついさっき、みんなで話しました（笑）。
高橋	曲はそのときに決めましたね。他のメンバーから「あの曲がいいんじゃない？」って意表を突かれた曲が挙がったので、ビックリしましたけど。
小山田	もちろん『META』の曲が中心になりますけど、それ以外も……。幸宏さんの曲だったり、YMOの曲だったり、テイさんの曲だったり、ナイショの曲だったり。まあ、いろいろやろうかなって感じですね。
高橋	『META』を出すことによって、ただのYMOをフォローしているだけのバンドじゃないってことはわかってもらえると思うんですよね。だから、最初のテクノ・リサイタル（前編参照）みたいに、今さらYMOの曲をもう一回すごくリアレンジする必要はなくて。あのときはなんかお祭りのように盛り上がればそれでよかったので。もしYMOとか昔の僕の曲をやるなら、そのままでやればいいと思うんです。まあ、まだ実際にやるかどうかはわからないけど、まりんいわく、YMOの曲をやるのは儀式みたいなものらしい（笑）。しかし、とにかく時間がないから練習しないと……。
小山田	今回は新曲が多いですからね。あと、これまでは高橋幸宏＆METAFIVEというバンド名だったので、幸宏さんのボーカル曲がほとんどだったけど、『META』ではLEO君も結構歌ったりしているので、それに合わせてライヴも変えないといけなくて。
高橋	そう、基本的にLEO君がメイン・ボーカルですから。

── 幸宏さんにそう言われると、LEOさんはプレッシャーを感じそうですが（笑）。

LEO	どうしよう、ヤバいなぁ……
高橋	そんなこと、本当は思ってないでしょ？　楽しむのが一番いいと思うよ。
LEO	は、はい、きっと楽しいライヴになると思います！

（取材　構成　中矢俊一郎）

“テクノポップ”以後の日本のポップ・ミュージック史における重要人物たちによるドリームチーム＝METAFIVE。その処女作『META』は、各メンバーの才能とセンスとキャリアがどう結び合あって生まれたのか？　今回は、高橋幸宏や小山田圭吾、LEO今井も参加したソロ作『CUTE』を15年に発表したテイ・トウワと、かつて電気グルーヴのメンバーとして名を馳せ、強烈なYMOフリークとしても知られる砂原良徳、pupaやIn Phaseといった高橋幸宏主宰のバンドに参加してきたユーフォニアム奏者・ゴンドウトモヒコによる鼎談の前編をお届けしたい。

「METAFIVEやってます！」と堂々と言えなかった

── METAFIVEは、高橋幸宏さんが“テクノ・リサイタル”と銘打った2014年1月のコンサートのために結成されたわけですが、幸宏さんからそのお誘いがあったとき、みなさんはどう思われたんですか？

テイ	僕は、いわゆるコンサートを自分では一回もやったことがないし、ディー・ライト以来でバンドもコンサートをやるとは思っていなかったけど、幸宏さんに「一回だけ」という考えがあってのことだったので……。まりん（砂原良徳）も小山田（圭吾）君もやるっていう話だったし、自分もやろうかなと。
ゴンドウ	In Phaseとかpupaといったバンドでも幸宏さんとやってきた僕は、むしろ声をかけられなかったらどうしようって思った（笑）。
砂原	僕は、幸宏さんに「もうその日をおさえているから」と言われたんです（笑）。最初は幸宏さんがフェスっぽいことをやるのかなと思ったんですけど、普段は楽器をほとんど演奏していないので、「僕は何をやるの？」って。で、とにかく参加してみたという感じなんですけど、まさか楽器を弾くとは……。
テイ	O/S/T（小山田、砂原、テイ）名義で幸宏さんのリミックスをやろうとしていたし、小山田君とゴンちゃんはYMOのライヴでサポート・メンバーとして参加していたので、幸宏さんには「丸ごとM&Aしちゃえ」っていう考えがあったんでしょうね。ただ、LEO（今井）君は、知っていたけど接触したことはなくて、まりんや小山田君にとっても新しい風になったんじゃない？
砂原	そうですね。KIMONOSは聴いていたんですけど。
ゴンドウ	テクノ・リサイタルの前にやっていたIn PhaseのライヴにLEO君がゲストで参加したことがあったけど、そのときに幸宏さんは何か感じたんでしょうね。
テイ	とにかく、結論から言うと、このメンバーでよかった。幸宏さんが歌う僕の「RADIO」という曲（13年の『LUCKY』収録）をライヴでやる場ができたし、それがMETAFIVEの重要なレパートリーの一つになっている。ただ、『META』をつくり出すまでは、「RADIO」と小山田君の主導でつくった『攻殻機動隊ARISE』の曲（14年9月に発売された同アニメのエンディング曲「Split Spirit」）以外にオリジナル曲のレパートリーがなかったので、ライヴではYMOとか幸宏さんの曲をやっていたんだけどね。
砂原	持ち曲がないから、「METAFIVEやってます！」って堂々と言いにくかったですよね。
ゴンドウ	テクノ・リサイタルの後はフェスとかに呼ばれるようになったから、ますます自分たちの曲をつくりたくもなりましたね。
テイ	フェスには「一回、出ておこうか」みたいな感じだったけど……。
砂原	トータルで4、5回出たんですかね。
テイ	その中でも、小山田君仕切りの『攻殻～』のイベント（14年11月の「SPACE SHOWER TV開局25周年×攻殻機動隊25周年×日本科学未来館 GHOST IN THE SHELL ARISE“border:less experience”sounds curated by CORNELIUS」）でやったライヴはまとまってきた感触があって。あのときにバンドのカラーが出てきた気がするんですよね。
砂原	でも、あのイベントの後のことは何も決まっていなくて、みんなで「もったいないね」という話をしていた。
テイ	「その後、誰が言い出したのかわからないけど、「いつやるか？　今でしょ！」って感じでアルバムをつくることになった（笑）。
砂原	それ、13年の流行語ですが……。

体が動く曲がいい

── 幸宏さん、小山田さん、LEOさんも、誰がアルバムをつくろうと言い出したのかわからないと言っていました。

砂原	本当にわからない（笑）。誰かがやろうと言って、その後、ミーティングに呼ばれて、みんなで意思確認をしたような……。
テイ	15年の2月に、会議というか食事会があって、そこでアルバムをどうやってつくっていくか話したんですよ。そのときに、ゴンちゃんがもうデモをつくってきて、みんなに聴かせてくれて。
砂原	フライング気味でしたね（笑）
テイ	それが「何これ!?」って感じで（笑）。
砂原	理解できるかなっていう不安があった……。でも、ゴンちゃんがデモを持ってきたことで、「あ、これは本当にやるんだな」って認識できた（笑）。
テイ	僕はその年に、8枚目のアルバム『CUTE』（同年8月発売）を出そうとしていたんですけど、「一人、2曲を担当する形だったらできるんじゃないか」という話になって。ただ、「RADIO」はもともとあって、そのノルマを1曲こなしているから、あと1曲ならできるなと。『META』に入っている「RADIO」は、まりんにリミックスしてもらった音源が下地になっているけど、アルバムをつくり出す前のライヴで、小山田君のギターとかゴンちゃんのユーフォニアムとかが入ってバンドっぽいアレンジになっていたんですよね。小山田君の『攻殻～』の曲でも、小山田君がメロディをつくり、幸宏さんとLEO君で詞を書くっていうプロセスを経験していたので、その2曲をモデルケースにしたところはあって。あと、フェスに出ることが多かったせいか、まりんは「体が動く曲がいいな」って言っていたよね。
砂原	はい、言いましたね。
テイ	僕も、フェスでウケが悪いより良いほうがいい気がしたし、近年の幸宏さんのアルバムは“静”のイメージ寄りだったから……。まあ、60代になった幸宏さんがあんまりアップテンポな曲をつくるのもどうかと思うので、そうなるのは当然のことなんですけど、『CUTE』でやっていたこともわりと“静”だったので、METAFIVEのアルバムは“動”がいいのかなって。
砂原	とにかく、そんな感じで一人2曲ずつ責任をもってつくることになりましたよね。
テイ	品質管理の責任というかね。その関わり方は曲ごとに違うんですけど、結果的に12曲できたと。その間に、自分が担当した曲にみんなが反対したりすることはなかった。
砂原	わりとスムーズに曲ができていきましたよね。

── 幸宏さんは、自分が担当した曲は最初のデモをつくり込みすぎたせいで、そこに5人が音を足していったらお皿からはみ出したようになってしまった、と言っていましたが。

砂原	すごく気にしてるんだなぁ……。
テイ	そんなこともないんですけどね。まあ、小山田君発動の「Don't Move」なんかは、小山田君はかっちりつくっていないデモをみんなに渡した。そのへんが彼はスマートで、確かに音数は少なくて。でも、すごく複雑な曲で、トライ＆エラーはしているんですよね。最初、小山田君は「オケしかないんだけど」と言ってデモを持ってきて、メロディは聴かされなかったんです。で、構成はキメがいっぱいあって難しいので、どうしようかなと。正直、僕はノルマのもう一曲が終わっていなかったし、他にもやることがあったけど、「難しいから誰も手をつけずにいるから、僕がメロディとか詞を考えていいの？」って小山田君にメールしたら、「どうぞ」って。それくらい、あの曲は最初、みんなどう進めていいかわからなかった。小山田君は自分でメロディをつくれるでしょって思ったけど、プロデューサーとして彼なりの戦略があったんでしょうね。

── まりんさんやゴンドウさんも、自分のデモはラフさを残したりしたのでしょうか？

ゴンドウ	いや、僕は幸宏さんと似ていて、デモは作り込んだほうかな。それはそれでいい部分もあるんでしょうけど、やっぱりこの6人でやる醍醐味を味わえたほうがいいし、小山田君のやり方がスマートに感じたので、次にまたデモをつくるならそうしたいなと。
テイ	隙があったほうが得なんですよね。で、バンドのいいところは、他人の手柄を自分の手柄にできること（笑）。
砂原	「オレのバンドの曲」って言えると（笑）。僕の場合は、最初、みんながデモをつくったりしているのを眺めたりして、後手に回る感じだったんですよね。で、曲が大体そろってきたところで、アルバムに足りない要素を入れようと思いながら自分の曲をつくっていったというか。テイさんから「リードっぽいのを一曲つくって」という指令が出ていたので、「Luv U Tokio」の土台をつくって、その後、みんなで一緒に仕上げていきました。
テイ	「大人なんだから、『Shangri-La』（電気グルーヴの97年シングル）以来のヒット曲を書けよ」ってね。
砂原	いやいや、それは今聞きましたけど（笑）。

ゲストを入れなかった本当の理由

── METAFIVEのメンバー全員はそれぞれキャリアがあり、ソロのほか、他の歌手に楽曲・歌詞を提供する作曲家・作詞家や、プレイヤー、アレンジャー、プロデュサーといった顔もあったり、マスタリングやミックスをするエンジニア的な視点も備えていたりしますよね。今回の『META』での作業は、そのすべてを兼ねるような感覚だったのでしょうか？

砂原	METAFIVEは自己完結できる人ばかりなんですけど、各作業でどの人が動いたほうがいいかというのは自然に決まっていったと思います。音質に関してもみんなそれぞれ気になるポイントがあるし、ヴィジュアル関係はテイさんが担当したり……。そのへんの分担やフォーメーションは良いんですよね。
テイ	そういうこともあって、回ってくるデモに対して、「ヒッドいなぁ」とか思わなかったからね。同じ業界でも、「基本がなってないだろ！」って言いたくなる人っているじゃない？
砂原	ビックリする音源はありますね。
テイ	『META』はまたちょっと違う特殊さがあったというか。Macユーザーであることとかみんなが重なっている部分と、重なっていない部分が良いバランスであるんですよね。だから、自分がやらないときは誰かがやってくれるだろうって信頼感もあって。ソロだと、いつもリズム部分も含めてほぼ100％自分でやるんだけど、今回はリズムにはあんまり関わらず、ウワモノ系を手がけることが多かったですね。しかも、ヘンなノイズとかじゃなくて、意外とシンセとかでウワモノを入れたりね。

── 意見が食い違ったりすることはなかったんですか？

砂原	全然なかったですね。それは、みんなそこそこの年齢だということも関係あるんじゃないかな。若いと衝突があると思うんですけど、「オレがオレが」って人もいないし。
テイ	僕はソロでつくってきた幸宏さんと女の子がコントするような曲が好きだから、誰か女の子を入れるイメージで「Luv U Tokio」のサビを考えていたんだけど、まりんに「いや、他の人はいらないですよ」って言われて、「確かに、幸宏さんとLEO君で十分か」と思ったり。
砂原	2人のボーカルが出たり入ったりするフォーメーションが、すごくよくできていましたからね。「Don't Move」とかもそうだけど。
テイ	幸宏さんは「LEO君がオイシい部分を用意してあげて」って言っていたけど、あの2人でうまく考えて進めてくれた。
ゴンドウ	ハモリにしてもそうですよね。
テイ	「僕、ここは出るけど、あそこは出づらくて」とかお互いに譲り合いの精神があった。ただ、まりんはマスタリングで頑張っていたよね。
砂原	僕は陰で頑張った……。

── 今回、まりんさんから「ゲストはナシで！」という指令がはっきり出たという話を、他の三方から聞きました。

テイ	まりんは、言うときは言うんだよね。
砂原	自分が思っていることは、ちゃんと言ったほうがいいんです。全体がいい感じでスムーズに動いていくようにちょっとは気にしていましたけど、結果的にあまりそういう心配もいらなかたったし。
テイ	誰かが何かやり出さないと、何も始まらないというのはあるからね。
砂原	ただ、ひとつボンって始まると、ワワワってみんな動いた。最初のほうにつくった曲は、それで音数が多いんですよ。
テイ	池にパンを投げると……。
砂原	鯉がブワーって集まってきちゃうみたいにね（笑）。だから、やる気はみんなあったんですよ。
ゴンドウ	パンを投げるタイミングが大事なんだよね。
砂原	そうそう。で、ゲストを入れなかったのは、役者がすでにそろっていますからね。ピッチャーというべきボーカリストが2人いるし。
テイ	小山田君も、いざとなったらボーカリストとして登板できるから。
砂原	実際、ライヴで歌ったりしていますよね。

動く曲だから「Don't Move」

── 今回、そのボーカリストの一人であるLEOさんとテイさんは共同で作詞をしていますが、それはどのように進めていったんですか？

テイ	LEO君と詞を書いたのは「Don't Move」と「Luv U Tokio」だけど、その2曲で進め方は全然違って。「Don't Move」の場合は、幸宏さんが歌う「Don't you worry 'bout a thing／A thing, thing, about a thing」という部分はメロディとフレーズを一緒に考えて、展開部のメロと言葉少々も考えたけど、あとの詩のディテールはLEO君に任せました。で、LEO君が書いた詞に対して「展開部分はDEVOっぽく歌ってよ」「流行りなんてもはや気にしなくていいんじゃない？」とか、一緒に飲みながら伝えて。誰がどこをどうしたかっていうのは、正直どうでもいいんです。 逆に「Luv U Tokio」に関しては、僕が書いた詞をLEO君に「この後、喫茶店に行って加筆添削してよ」って誘いました。例えば、「ディフラグして　Hold me tight」という部分の「ディフラグ」に対応する別の言葉をLEO君が「メモリを消しHold me tight」て考えてたり。LEO君は歌えて、しかも英語はネイティヴだから、音に合わせながらそういうやり取りをするのが大事かなって。僕もある程度は英詞を書けるけど、「ここ、文法的に合ってなくない？」って心配はあるから、LEO君にジャッジしてもらえたのがよかった。ただ、「イエス Do I do」という部分は文法的に合っていないですけど、「これはノリでいいんじゃない？」ってLEO君のアドヴァイスを元にそのまま採用したんです。しかし、気は遣いましたよ。まりん発動の曲だから、「そんな歌詞でいいの!?」って（笑）。
砂原	問題なかったですよ。デモは僕が最初につくったけど、テイさんがコンセプトというかバックボーンとなるようなイメージのシナリオを投げてくれたので、曲の細かい部分を決めていけたんです。
テイ	そういえば、『エクス・マキナ』という映画の話を、詞をつくる前にしたんだっけ？
砂原	テイさんがその映画を観たって話を聞いた覚えがありますね。
テイ	言うなれば、クラフトワークがコンセプトにしていたようなコンピュータ・ラヴが描かれているんですけど、それも現実になってきたし、面白かったんですよね。だから、そういう映画に合う歌詞はどうかなと。

── なるほど。ちなみに、「Don't Move」の歌詞に関しては、「Don't move　Don't climb upon the trend（動くな　トレンドに乗っちゃだめだ）」というメッセージ性が比較的強いラインもありますよね。

テイ	結果的にはね。小山田君のデモを最初に聴いたときに、すごく攻撃的で、物事がどんどん進んでいくような印象だったから、逆にタイトルを「Don't Move」にして、「Stay just where you are（そのままじっとしていろって）」というラインで歌詞を膨らませていくのはどうかって小山田君に説明したんです。それまでみんな何も手をつけずにいたので、「激しい流れの曲だな」と思った僕が何か動き始めないことには作業が進んでいかないじゃないですか。そこで、あえて「Don't Move」をコンセプトにして、LEO君と歌詞を考えていったと。それだけの話です。もちろん、「音楽のトレンドに流されない」ということも引っかけてはいるけど、とにかく小山田君のデモを聴いて「スゲー動く曲だな。何、この構成!?」って思ったので。
砂原	僕はどうやって覚えようかなって（笑）。ただ、曲の構成は複雑だけど、実はシンプルに楽しめると思うんですよね。決して難しい音楽ではない。
ゴンドウ	今思い出したんですけど、pupaの2枚目（『dreaming pupa』）に「Meta」という曲があるんですよ。あの曲と「Don't Move」はどこかリンクする部分があると思う。曲の構造はまったく違うんですけど、でき上がった感じが似てる。途中でドラム・ソロがあるし、ホーン祭りになるし。
テイ	「Meta」は誰発動でつくったの？
ゴンドウ	幸宏さんと僕ですね。
テイ	じゃあ、幸宏さんはMETAという言葉をずっと使いたかったのかな。
ゴンドウ	とにかく、「Don't Move」は最初にはっきりとしたコンセプトがあったわけじゃないけど、結果的にいい形で着地したなって思いますね。

METAFIVEのファースト・アルバム『META』は、ハイブロウな6人の才能とセンスとキャリアがどのように結び合あいながら誕生したのか ──。テイ・トウワ、砂原良徳、ゴンドウトモヒコによる鼎談の前編では、アルバムをつくり出すまでの経緯や、各楽曲の制作過程などが話されたが、後編ではMETAFIVEというバンドとそのメンバーたちの特殊性について語ってもらった。

6人が集まった途端に物事が進んだ

── 前編のお話に出た「Don't Move」が特に顕著だと思いますが、『META』は全般的にライヴ感がありますよね。

砂原	『META』をつくる前のミーティングで「体が動く曲がいい」って僕は言ったけど、それがみんなの頭の中にも残っていたと思うんですよね。

── 『META』の制作過程で、EDMのような最近の音楽をみなさんが話題にすることはあったんですか？

砂原	いや、一回もないですね。
テイ	EDMのDJをディスることもないし、そもそもEDMに興味がない。
ゴンドウ	ただ、年齢を重ねて最近の音楽に疎くなったという話じゃなくて、自分たちの耳に入ってこなければそれまでっていう。
テイ	メンバー全員、音楽として興味のあるジャンルではないんです。僕とまりん（砂原良徳）はDJの現場に比較的いるほうだけど、猫も杓子もEDMになっていて面白くないしね。
砂原	EDMは発散が目的になりすぎてる。というか、それのみですよね。
テイ	ゲームセンターの前を通ったときに「うるせぇなぁ」って感じるのと同じなんだよ。それと、EDMは誰でも乗れる自転車みたいで……。DJにとっても、ノるお客にとってもね。つまり、目的が単一になりすぎていて、ノれればそれでいいのかと。僕がまだDJを精力的にやっていた頃、細野（晴臣）さんに「週末はまた営業？」って言われたら、「営業も悪くないですよ。面白い音楽もあるので」と答えたりしたんだけど、今のEDMにはMETAFIVEは誰も話題にしない。
砂原	EDMは時間が経てば、90年代前半にジュリアナ東京でかかっていた音楽とか、その後のサイバートランス系とかと似たような括りになる気がするんですよね。
テイ	僕らは常にそういう方面に行かないようにしているもんね。というか、そもそもそっちに行くタイプじゃない。とにかく、「Don't Move」の「Don't climb upon the trend（トレンドに乗っちゃだめだ）」という詞とかは、「流行りはいつか廃れるよ」って話にちょっと引っかけてるだけ。「いいじゃん、君の好きなことを好きなようにやれば」と。
砂原	でも、ピエール瀧が歌ってくれるならEDMをやってもいいけど（笑）。
テイ	じゃあ、METAFIVEに次に入れるメンバーはピエール瀧にしようか（笑）。
砂原	僕、知り合いなんですよね。
テイ	まりん、口説いてきてよ！
ゴンドウ	いやいや、入らないでしょ（笑）。

── 小山田さんにも同じ質問をしたのですが、まりんさんはバンドとしてアルバムを出すのは久しぶりだったんじゃないですか？

砂原	久しぶりですね。ずっと孤独にやっていたので、すごくはしゃぎました。自分一人でつくっていると、もちろん最初から自分で考えて、最終的に自分でジャッジしないといけないわけですけど、METAFIVEでは他のメンバーに相談もできたり、意見も飛んできたり、「これ、どうしようかな」と迷ったら誰かがやってくれたり。それは、楽（●要ルビ：ラク）でもあるし、楽しいことなんです。
テイ	“楽（●要ルビ：ラク）”と“楽しい”は一緒だからね。僕も一人でやりながらニヤニヤすることはあるけど、ずっとニヤニヤしていたら頭がおかしい人なので。
砂原	あと、一人の作業とバンドの作業の両方があると、片方に飽きたらもう片方をやったりできるのがいいなと。
テイ	僕はディー・ライトのときにそれができなかったんです。歌う人（レディ・ミス・キアー）に「なんかヤダ」とか言われて……。それに対して僕が「この曲のどこがイヤなの？　絶対にいい曲じゃん！」って言い返すこともあって。その頃はソロになるとか想定外だったんだけど、ツアー中に僕がステージから落ちて大怪我をしたり、ディー・ライトの音楽の方向性が変わってきたりしたときに、教授（坂本龍一）が「ソロでやれば？」って当たり前のように言ってくれた。それ以来、実際にソロで活動してきたわけだけど、METAFIVEが始まる前に、小山田君とまりんとO/S/Tという名義でアルバムを一枚出そうって話を10年くらいしていたんですね。まあ、それはバンドとはまたちょっと違うし、結局、何も具現化しなかったけど、METAFIVEの6人が集まった途端に物事がいろいろ進んだのは、やっぱり呼びかけ人である幸宏さんさまさまなんですよ。
砂原	人選に意味があったんだなって。さっきも言ったように、最初は「オレ、何やるんだろう……」って思っていたけど、見事に6人が定位置についてやっているので。幸宏さんはバンドをたくさんやっているので、「何か起きるためにはこの人とこの人を……」という人の選び方がうまいんでしょうね。実際、何も起きないってことはなかった。
テイ	「何も起きていないな、このバンド……」っていうことになったらどうしようかと思ったね。こういうプロジェクトって、暗礁に乗り上げることはありえるから。
砂原	それが怖い。それなりに実績がある人が集まって、その実績よりクオリティが低いとカッコ悪いじゃないですか。足し算どころか、かけ算くらいになってくれないと困るなとはちょっと思った。
テイ	そうそう、ソロより売れなかったら考えものだよ（笑）。

── 砂原さんは、電気グルーヴとは違う感覚だったんですか？

砂原	電気のときはもっと距離が近かったんですよ。バンド内の人間の距離がね。また3人と6人というのも違うし。
テイ	あと、時代も違うんじゃない？
砂原	あの頃は20代でしたからね。それぞれが「オレがオレが」っていう感じでした。
テイ	ショートメールもなかったし。

── 『META』の制作では、6人全員が顔を会わせる回数は少なく、メールでやり取りすることが多かったそうですね。

テイ	そう、グループメールとかね。6人でメールし合うことはあんまりなかったけど、僕は軽井沢に住むようになったのがもう15年前だから、メールでやり取りすることは普通なんです。
砂原	テイさんと僕とかは、日常的にメールをしたりしますね。仕事じゃなくても、「この音源、いいでしょ？」とか。そういう意味で、『META』をつくるのは日常っぽかった。
テイ	日常っぽくて、波乱万丈もなく、でも結果的にムーヴした。だから、自分のプロジェクトもやりつつ、『META』もできてよかったなと。

すぐに意気投合した小山田圭吾と五木田智央

── メンバーどうしはこれまでも共演したり、面識があったりしたと思いますが、今回のアルバムを一緒につくってそれぞれの関係は何か変化したのでしょうか？

テイ	でも、さっきも言ったように、LEO君はもともと知らなくて。
砂原	LEO君は言葉の部分で力を発揮してくれたり、バンドの先頭を走れと言ったら堂々と走ってくれたり。一番若いですけど、それが頼もしいなと思いました。
テイ	そういえば、僕が前にいたバンドの他のメンバーは外国人だから、日本人とバンドをやるのは初めてだった（笑）。ディー・ライトのときは「ファック・ユー・メーン！」とか「ファック・ユー・トゥー！」とか言い合っていて……。そういう意味でも、英語ができるLEO君がいてくれるのは心強かった。「こういう英詞のアイディアが浮かんだんだけど、どうかな？」って臆せず聞いたりできる人が身内にいるというのは。
砂原	あと、みんな自分のフィールドにそれぞれ戻るときもあると思うんですけど、困ったら相談できる人が増えたなと。
テイ	音楽はまず自分一人が楽しければいいものであると同時に、コミュニケーション・ツールでもあるので、やっぱり笑いが大事かなって思う。音楽で笑わせるという意味じゃなくて、バンドのメンバーと音楽をつくっているときとかクダらない話をしているときの笑いね。それはやっぱり、一人でニヤニヤしているのとは違うので。
砂原	そういうクダらない話も含めて共有できるのは重要ですよね。

── METAFIVEは日本のポップ・ミュージック界におけるハイブロウな音楽家たちのドリーム・チームというイメージもあるのですが、6人に共通する文化的なリテラシーやセンスがあるのかもしれませんね。

テイ	メンバーの間に通奏低音みたいなものはあると思う。「このレベルはないよね」とか「こんなに偏差値を下げたくない」みたいなことは、言わなくてもわかるんですよ。ジャケットのアートワークをお願いした五木田（智央）君とは僕もそんなに長い付き合いじゃないけど、彼と同い年の小山田君は会ってすぐに意気投合していた。そんな2人には何か共通項があるのかもしれないですね。示し合わせて同じ方向に行かなくても、もともと近い場所に住んでいるというか。広い宇宙でいったら親戚みたいな。
砂原	EXILE宇宙とかAKB宇宙とか、僕らがまったく接点のない場所もありますからね。

フラットな世の中に生きる“変人”たち

── 確かに。ところで、小山田さんが主導した『攻殻機動隊ARISE』のエンディング曲「Split Spirit」（14年9月）がリリースされた頃のある取材で、幸宏さんと小山田さんがゴンドウさんのことを「本当の変人」と言っていました（笑）。本人的にはその自覚はあるのでしょうか……。

ゴンドウ	その自覚があったら本当の変人じゃないですよ（笑）。
テイ	明日仕事があろうがつぶれるまで飲むとか、そういうダイナミックさはあるよね。
ゴンドウ	それはそうかもしれない。
テイ	幸宏さんや僕は、明日は早く起きなきゃいけないから今晩は程々にしておくとか、A型っぽいところがあるんですよ。
砂原	ゴンちゃんはハイテンションか寝てるかみたいな（笑）。
ゴンドウ	最近、ショートスリーパーなので、飲んでるときは楽しければずっと話しているけど、一瞬間があると寝ちゃうことがあって。
テイ	夜の睡眠時間が短いと？
ゴンドウ	そうですね。ただ、どこでも寝られるから別にいいんですけど。僕は、若い子たちから御大の幸宏さんまで、いろんな人とバンドをやっているので、どこに行っても同じようにしていられるんです。
砂原	あと、音楽の守備範囲が広いんですよね。
ゴンドウ	悪く言えば、何でも屋みたいな感じだけど、自分としてはそこそこ安定しているんです。
テイ	ゴンちゃんも、僕との共通言語はもちろんあるけど、すごくミュージシャンっぽい。それが良いとか悪いとかじゃなくてね。僕は他のミュージシャンから見たら全然ミュージシャンじゃないと思うし、自分でもミュージシャンだと思っていないんです。どちらかというと、アート・ディレクターのほうが自分ではピンとくる。
ゴンドウ	逆に、僕はテイさんのそんなところにあこがれていて、自分もそういう場所にいたいなって。あまり音楽家とか言いたくないし。やっぱり、僕ほど言われないけれど、他の5人もみんな変人なんですよ。ただ、テイさんやまりんさんとガッツリ仕事したのは今回が初めてなので、「テイさん、変人ですよ」とかいきなり言うのもおかしいし（笑）。でも、変人は褒め言葉だと思う。
テイ	フラットな世の中なので、そうだよね。その人ならではの説明できない面白さがあるってことだから。
砂原	代用品がない感じですよね。
ゴンドウ	それはありますね。僕がやっているユーフォニアムは、クラシックの楽器じゃないし、たぶん日本だけでやっていても食えないと思うんです。とはいえ、同じ楽器を生業にしている人はいっぱいいるけど、その中で誰一人として友達はいなくて（笑）。そう考えると、METAFIVEに入れたのは、他のメンバーもみんな僕みたいなレンジの広さを持ち合わせているからなんじゃないかな。かといって、何かに迎合して有名になってやろうという感じはないけれど。
テイ	僕も話が合うDJは少ないんですよ。
砂原	僕もクラブに行くと孤立している（笑）。どうもあの中にうまく入れない。
テイ	いかに大バコで盛り上げたかとか、VIPルームがどんだけ広いとか、そういう自慢をするDJは多いけど、「知らんがな」って話でさ。

── つまり、METAFIVEは各フィールドで異端な人たちの集合体でもあると。

テイ	異端とも思っていなくて、それを自然にやっているというか。
ゴンドウ	うん、自然ですね。
テイ	でも、すでにあるジャンルやソサイエティに入りたいワナビーが多いと思うんですよ。「EDM界のトップ10に入りたい」っていうDJとかね。目標があっていいなとは思うけど、METAFIVEはそういう欲望が希薄な人たちなんです。だから、良く言えば、ユニークということになる。
砂原	EDM界のトップ10とかって、結局、他人の評価ですよね。それよりもまず、自分がつくったものを自分でどれだけ好きになれるか。そっちのほうが重要な気がします。

メンバーの血肉になっているYMO

── なるほど。少し話題が変わるのですが、今回の『META』に“YMOの影”を感じるリスナーもいるような気がます。しかし、そう思われるのは心外だったり苦々しかったりするのでしょうか？

砂原	いやいや、それは自然は自然です。YMOは自分たちの血肉になっている部分もあるし、実際、『META』をつくる前はライヴでYMOの曲を結構やっていたわけですけど、YMOの代用品と思われるのはすっきりしない。その意味では、オリジナル・アルバムができてよかったなと。
ゴンドウ	YMOと比較されるのも構わないし、各メンバーのファンが聴いてくれるのも光栄だし、『META』で僕たちの音楽が好きになるのも嬉しい。
テイ	『META』を聴いてYMOの影を感じるのは、全然心外じゃないですよ。僕の場合、「RADIO」（もともとは13年のソロ作『LUCKY』収録曲）をつくっているときに、あのメロディの鼻歌が出てきたんだけど、それを幸宏さんが歌ってくれたらバッチリだなって思った。血肉化していると言った大袈裟だけども、そもそも最初にちゃんと聴いた音楽がYMOや幸宏さんの歌やドラムだった訳だし、そこから派生してブライアン・フェリーとかデヴィッド・バーンとかも聴くようになって。さらに、そういう人たちとも共通項があるLEO君の声が好きなんだから、YMOの影があると言われても嫌じゃない。しかも、YMOの曲をカバーしたりしていたから、そう思われるのは仕方ないかもしれないけど、でも、もうオリジナル・アルバムが完成したので。とにかく、YMOのことを言われるのは別に嫌じゃない。自分たちの音楽を人に伝えるときに、音源を聴かせるだけじゃ足りなくて、こうやってインタヴューを受けたりするけど、その伝える道具としてYMOの話が出てくるのはネガティヴなことではなないんじゃないかな。
砂原	実際、YMOからの引用もあるしね。
テイ	そう、リファレンスにしていたり。

── 1月にライヴが2回ありますが、アルバムとはまた違うアレンジになったりするのでしょうか？

砂原	そうですね。「ここは長くしよう、短くしよう」という話は出てくると思います。
テイ	「アルバムではこの曲は打ち込みだったけど、幸宏さんにドラムを生で叩いてほしい」とかね。
砂原	ライヴはライヴの音になりますね。音源とはちょっと違うはず。
テイ	でも、アルバムをつくっているときは、そんなにライヴのことは意識していなかったよね。
砂原	それを考えてつくると、あんまりよくない。制限が出てきちゃうから。昔のXTCみたいにね。ステージで再現できないことはレコーディングでやらなかったんだけど、ライヴをやめてから音源も変わった。

── 他の3人はすでに次のアルバムの話もしていましたが、みなさんも何か考えていますか？

テイ	またソロと並行してつくれそうな気もしますけど、まだ白紙ですね。
砂原	つくろうとしたら余裕でつくれると思いますよ。
テイ	実は今、僕はあるテレビ番組用に何曲かつくっているんですけど、小山田君にギターを弾いてもらったりLEOくんに少し歌ってもらったりもしていて。LEO君が「何にも詩もメロディもないトラックがあったら聴かせてくださいよ」って言うから、この間、一つ聴かせたんです。そうしたら、「いいですね」って。そういう隙間がある曲こそMETAFIVEに向いているのかもしれない。で、早い段階でみんなにデモを渡して、どう育っていくか様子を見るのも面白いような気がしますね。

── 『META』をつくったことで、ソロや他者への楽曲提供とは異なるアウトプットの方法がひとつ見つかったと。

テイ	それはあるかもしれない。一人でアイディアがこれ以上思いつきそうもなかったら、その曲はMETAFIVEに回すこともできるなと。なんとなく、そのへんの勘ってあるんですよね。曲をつくっているときに、「これは自分のアルバムの核になるな」とか「1曲目にしたら良さそうだ」とかね。
砂原	はい、ありますね。
テイ	で、その曲はMETAFIVEのほうが合うと思ったら、そうすればいいんじゃないかな。……とはいえ、まだそんなに深くは考えていないですけど。
砂原	まだアルバムをつくり終わったばっかりですからね（笑）。『META』に関しては「こうすればよかったなぁ」と思う部分は当然ありますけど、今はとりあえず次のアルバムよりもライヴのことを考えていますね。
テイ	そうそう。ライヴをやってみて、何か反省点が出てくるというよりも、「次はこんなことがしたい」って思うかもしれない。
ゴンドウ	とにかく、METAFIVEにはいろいろ可能性があると思いますね。

（取材 構成　中矢俊一郎）

三者鼎談に続いては、サウンドにまつわるスモールトーク。『META』の内部からアルバムのトータリティを見つめ、マスタリングを担当した砂原良徳。キャリアの最初期にフリッパーズ・ギターのレコーディング・エンジニアを務め、その後もコーネリアス作品、そして『META』のミックス・エンジニアを務めた高山徹の両氏を迎え、METAFIVEのレコーディング風景に迫った。

── まずはおふたりの出会いから聞かせてください。

砂原	出会いはここ1～2年ですね。もちろんお名前もお仕事も知ってましたし、それまでにもお会いしていたとは思うんですけど、きちんと話をしたのは、去年の科学未来館ですかね。
高山	そうですね。高橋幸宏&METAFIVEが出演した『攻殻機動隊』のイベントのライブ・レコーディングとミックスを自分が担当していて。
砂原	その仕上がりがすごくよかったんです。いきなりですが、僕、METAFIVEの生みの親は高山さんだと思ってますよ。
高山	え？
砂原	こないだメンバーと「誰がアルバムをつくろうって言い出したんだろうね」って話になって、結局それはわからずじまいだったんですけど、高山さんがやってくれた「攻殻」のミックスの素晴らしさに、僕ら自身も感動できたことがトリガーになっていることは間違いがないんです。METAFIVEはパーマネントなバンドじゃなかったから、曲によって演奏にばらつきがあったりして、正直「俺たちの実力ってこんなもんなのかなぁ」みたいに思っていた部分があったんですけど、高山さんに録ってもらったものはすべてがビシッとまとまっていたので、「彼だったらメンバー全員の音をまとめられるんじゃない？」と話したことを覚えてます。それまでぼんやりとした部分に対して、最高の具体例を提示してもらえたというか、「あ、これだったらアルバムまでいけるんじゃないかな」と思えたというか。

── 最大級の賛辞ですね。

高山	ありがとうございます（笑）。あのライブに関してはテイクがよかったんですよ。

── 事実、こうしてファースト・アルバムが完成したわけですが、いわばMETAFIVEはオール・スター・バンド。6者6様のサウンドをどうまとめていったんですか？

高山	みなさんのDAW環境は全然バラバラなので、ファイル形式はWAVに統一させてもらって、それをミックスしていきました。最初はおまかせでやらせてもらって、それに対しての意見を元に、微調整を繰り返して。
砂原	高山さんにたたき台をつくってもらってからの修正ですね。
高山	でも、そこまで苦労した曲というのはありませんね。多くてもテイク4ぐらいで完成してます。スタジオにくるのはその曲を書いた人と、小山田君と砂原さん、ゴンドウさん、LEO君。そのとき集まれる人は極力きてもらって、この音を活かそう、この音は削ろう、みたいに協議しながら。
砂原	小山田君は（高山さんと）やり慣れているので、通訳になってくれた部分もありますね。
高山	泣く泣く削った音というのもいっぱいあります。1セクション丸ごとカットしたのもありました。
砂原	最初は加減がわからなかったんですよ。たとえばデモをつくって、そのファイルをメンバーにメールすると、みんなが「俺も俺も！」って感じでそこに音を入れてきて、一周回って帰ってくると、山盛りになってる。

── 椅子取りゲームというか、座れない音が出てくるわけですね。

高山	席をつくってあげるために、フィルターをかけたりディレイで飛ばしたりということはやりました。音のキャラクターを変えることで両立させられるものはなるべくそうするように心がけて。だから自分は交通整理の役目ですね。高速道路の真ん中に立って、スーパーカーばかりがビュンビュンくる中での交通整理（笑）。その部分が楽しくもあり、悲しくもあり。「この音すごいいいのになんでミュートされてるんだろう……」みたいな。ラーメンの「全部のせ」じゃないですけど、すべてを活かそうとするとありがたみがなくなってしまうので。
砂原	冷やし中華の場合、キュウリがあって、錦糸卵があって、ハムがあって、その3つはだいたい同じぐらいの分量だと思うんですけど、紅生姜ってそんなにいらないじゃないですか（笑）。そういう押し引きやさじ加減というのはわかっていないと、METAFIVEのミックスは成立しないんです。

── アルバムを聴き終えて感じるのは、スピード感。すごくフィジカルな作品になりましたよね。

砂原	音の立ち上がり、粒立ちや速さにはこだわっていますね。身体が動くものをつくろうという意識は6人全員に共通していたと思います。高山さんにも「アッパーなもの」という意識をもってもらっていたと思うし、平均年齢47歳のオジサン・バンドにしては、かなり頑張れたと思いますね。

── オジサンたちがティーンを踊らせる。その構図が痛快ですよね。

砂原	やっぱり幸宏さんのパワーはすごいですよ。60歳を越えて、あの中にいて。
高山	LEO君の存在も大きかったと思いますね。あのニューウェーヴ的なサウンドを、若い耳で新鮮に捉えていて。「かつての自分もこういう音に反応していたな」と重なる部分があって、興奮させられました。

── 高山さん個人的に、とくに印象に残っている曲というのはありますか？

高山	どれが1曲を挙げるというのは本当に難しいアルバムですね。強いて挙げるとすれば「Maisie's Avenue」。あの曲は比較的ストレートな曲ですけど、おのおの極めた人たちが投げる直球というのはすごく力があるんですよね。「Whiteout」も印象に残ってます。最初に聴いたときに「すげぇカッコいい！ もうなんにもしないでいいじゃん！」って。事実、あの曲は最初のラフミックスのバランスを重視して、ほとんどイジってないですね。

── おふたりはミックスもマスタリングもされるわけですが、意識的に共有している機材というのはありますか？

砂原	プラグインなんかは同じものを使っているのかもしれないですけど、高山さんと僕は方法論的には近い感じではないと思います。僕はけっこうデジタル派なんだけど、高山さんは（アナログとデジタルの）ハイブリッド。両方のいいところを引き出してくれる。

── そんな高山さんのミックスに対し、今回は砂原さんがマスタリング。これはどういったアプローチで？

砂原	できたマスターをレベルやEQで揃えていくという作業なんですけど、今回はすべてのミックスが高山さん、ひとりのエンジニアによるものなので、そこまで大きくイジるということはしてないです。
高山	もしこれが複数のエンジニアによる作品だったら、やることは格段に増えますよね。
砂原	どこを基準に楽曲を捉えるのか、曲の作者によってそれが変わってくるので、そこを見極めるというのが最初の作業ですね。でも、最初は僕がやるはずじゃなかったんですよ。マスタリングには客観視というのが必要なので、（バンドの）内側から見る景色と外側から見る景色というのはまったく違うと思うし、これまで僕、自分の作品のマスタリングというのはやってこなかったんですよ。自分で自分の髪が切れないのといっしょというか、マッサージなんかも人にやってもらわないと気持ちよくないというか。だから今回も自分から「やります」とは言ってないんですけど、なぜか自分のところにメンバーの意見や要望が集まることが多くて、それを高山さんに伝える際、言葉ではなく音、つまりは自分で試験的にマスタリングしたものを聴いてもらうということをしていたんですね。ただ、そのテストを再現してもらう作業ってなんなんだろう？ってことにになって、メンバーからも「だったらこのままやっちゃえよ」と言われて。……思えば自分が初めてマスタリングに携わったときも、よく似た経緯がありました。何年か前に、電気グルーヴのサポートをやっているagraph（牛尾憲輔）君のアルバム（『equal』）で、「マスタリングを誰にしようか悩んでる」と相談されて、「じゃあ試しにやってあげるよ」ってプロトタイプ的なマスタリングをしてあげたんですよ。その後「で、結局誰に頼んだの？」って訊いたら、「このままやってください」って言われて。それと同時にコーネリアス『FANTASMA』のリマスター盤の仕事がきて、2010年のその2枚が無免許エンジニアとしてのデビューですね。

── 砂原さんは「手製リマスター盤」もたくさん作られてますよね。小山田さんに（フリッパーズ・ギターの）『ヘッド博士の世界塔』のリマスター盤をプレゼントしたと聞いてます。

砂原	やってますね。自分のライブラリーのマスタリングというのはほぼ終わりました。7～8年かけて自分の持っている音源をかたっぱしからリマスターしていくことで、だんだんとわかってきた部分がありますね。マスタリングって、古銭とか古い紙幣をクリーニングするようなことにも近くて。
高山	それはありますね。埃だらけのピラミッドの内部に分け入っていくような感覚。
砂原	そこで見つけた硬貨をピカピカに磨き込む作業というか。……マスタリングに関しては、昔ほどクオリティの差がなくなってきましたよね。
高山	プロでしかできなかったものが、駆けだしの人でもそこそこのものをつくれるようになってきた。プロとアマの差を出しにくい時代かもしれませんね。
砂原	日々勉強ですよ。たとえば古い音楽だとわりとフラットに聴けたりするんですけど、新譜だと、「この音はなんだ？　こんな音知らない！」とついつい分析してしまうし。
高山	それはもう、しょうがないですよね。職業病です。
砂原	高山さんって、この仕事をしてなかったらなんになってましたか？
高山	なんですかね。
砂原	高山さんは車好きですよね。たぶん車のエンジニアだ（笑）。
高山	結局はエンジニアなのか（笑）。うん、たぶんそんなところでしょうね。

（取材　構成　江森丈晃）

『META』のジャケットに浮かび上がる漆黒の美女は、今やNY MARY BOON GALLERYでも展覧会を開催するほどの才能、五木田智央のペインティングによるもの。アートにまつわるテーブルトークでは、METAFIVEの実質的なアート・ディレクターであるテイ・トウワとともに、両氏の出会いから、サウンド＆ヴィジョンの相互関係～『META』への経緯までを明かしてもらった。

── 五木田さんのリクエストで、今日は居酒屋での放談です。普段からおふたりでよく飲まれたりするんですか？

テイ	こっちで「よぉ、これから飲みいこうぜ！」っていうのはないですよ（笑）。
五木田	テイさんがロスまで僕の個展にきてくれたりして、そこではいっしょに焼肉を食べたりして。
テイ	ロスの個展はわりと大きめだったよね。
五木田	エリア的には中心部からだいぶ外れた、たぶん昔はヤバかったんだろうなぁ、みたいなメキシコ人街で、夜はかなりおっかないところでしたけどね。
テイ	もちろん五木田君のことはその前から知ってましたよ。最初の作品集『ランジェリーレスリング』がとにかく印象的で、僕は当時の個展も見にいってるんだけど、「あ、この人ブレイクするんだろうな」っていうのはすぐわかった。ヘタウマとはまったく違うし、ウマウマがヘタに描いているのがわかる。最初はヒロ（杉山）君とテイストが似てるなって思ったけど。あれって何年だっけ？
五木田	2000年です。もう14年も前の作品集ですね。
テイ	僕が軽井沢に引っ越した年だ。ミニマルな家を建てて、真っ白な壁を見ているうちに、ここにアートが欲しいなぁ、なんて思い始めた時期。バスキチとかバリキチとかからかわれるぐらいに（ジャン＝ミシェル・）バスキアとかバリー・マッギーの作品集を穴が開くほど眺めてて。

── テイさんがジャケットに顔を出さなくなった時期ですね。

テイ	自分のジャケットもアートとして捉えたくなった時期だね。実際バリーには『FLASH』（2003）の絵を頼んで……そうそう、五木田君に話したっけ？　バリーに送ってもらったデータっていうのが、大笑いで。「TOWA TEI」の文字も途中で切れてるし、人物も髪の毛のゴチャッとした部分だけが描かれていたから、心配になって連絡したら、「うちのスキャナーには全部は入らない」って。
五木田	アハハハハ（笑）。
テイ	ド天然ですよ、あいつ。

── 五木田さんはその頃のことを覚えていますか？

五木田	僕はとにかく悶々としてましたね。本が出たことで仕事が増えたのはいいんですけど、自分がグラフィック・デザイナーなのかイラストレーターなのかペインターなのかわからなくなっていた時期で……。
テイ	クライアント仕事だ。
五木田	それでもお金が稼げればいいやって割り切って、CDジャケットのデザインなんかはかなりの数をやっていたんですけど、だんだんと「向いてねぇなぁ、好きなことやりたいなぁ、俺どうすんのかなぁ」って気持ちが溜まっていって。

── それでも絵は描き続けていたんですよね？

五木田	描いてました。手は動かしていたかったんで。だから絵に煮詰まるとカセットMTRの宅録で音楽をつくったりして。……あ、宅録といえば、俺、デビュー前のテイさんが坂本龍一の（ラジオ番組）サウンドストリートに投稿していたデモの入ったレコードを持ってるんですよ（『DEMO TAPE-1』／テイ・トウワ「Old Good Day's Workers」「CRY」のほか、ラジオでオンエアされた音源を中心に収録したコンピレーション・アルバム。当時の帯につけられたコピーは「わたしを、きいてください」だった）。あれはデザインもテイさんなんですよね？
テイ	そう。当時のディレクターに「やりなさい」ってむちゃぶりされて。美大を出ているといっても素人だし、入稿の方法もなにもわからないから、誰かプロの人をつけてくださいと頼んだら、シブちゃんっていう立花ハジメさんのアシスタント──その後に仲條正義の右腕になって『花椿』なんかの仕事もしていたデザイナー──を紹介してもらったんですよ。で、当時のハジメさんはYMOのアート・ディレクションで有名な奥村（靫正）さんの事務所を間借りしていたから、自分にとってはスターみたいな人たちに混ざって仕事をすることになったんだけど、夜中になるとね、聞こえるんですよ、「あの若造いつまでいるんだろうね」って（笑）。
五木田	（笑）。
テイ	「居づらー！」みたいな（笑）。僕がやったデザインというのは、当時はまだ何千万もしたナプルプス・システムという機材のスキャン／プリントを切ってコラージュしたものなんだけど、あるときそれを見た奥村さんが「おもしろいね」って話しかけてきてくれて、そこから急に仲良くなって、奥村さんの個展の音楽をやることになったりもして。奥村さんがやった（ウィリアム・ギブスン著）『ニューロマンサー』の装丁のコラージュ素材をプリントしてきたのも僕ですよ。あんまりオラオラ言うつもりもないんだけど、ハジメさんにも「今度、アルバイト・ニュースのポスターをやるんだけど、君、それってどこでプリントしてきたの？」と話しかけてもらって。
五木田	そのポスター知ってる！　というか盗みました（笑）。駅貼りのを剥がしてきて。

── 間接的にとはいえ、四半世紀以上も前からおふたりは繋がっていたと。

テイ	実際に話したのはわりと最近なんだけどね。去年の今頃、ニューヨークで手に取ったアート系のフリーペーパーで、五木田君が、バスキアの映画なんかにも出ているメアリー・ブーンというオバサンがやってる世界的な老舗ギャラリー（MARY BOON GALLERY）で個展をやっていたことを知って、「五木田君ってそんなことになってんだ！」と驚いて。で、僕がハニカムからデビュー20周年の本（『ハタチ』）を出すことになったときに、「誰と対談したいですか？」と訊かれたので、五木田君の名前を出して。……メアリー・ブーンからは直電があったんだよね？
五木田	そうです。いきなり「ディス・イズ・メアリー・ブーン」と電話がかかってきて、最初誰だかわからなかったんだけど、「あなたの絵が大好きなの、私のところでやらない？」みたいな話を聞いているうちに、「え？　あのメアリー・ブーン？　イエス！　やりますやります！」と気をつけの姿勢になって（笑）。
テイ	僕がSWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINEのアルバム（『TEI TOWA』）でジャケットを頼んだKAWSが五木田君の絵をたくさん買っていて、KAWSのところに遊びにいったメアリー・ブーンがそれを見て連絡してきたっていう。
五木田	今はいわゆる現代美術、好きな絵だけを描ける環境になったので、悶々としていた時代は過ぎたんですけど、ここ数年はいろんなギャラリーから声がかかりすぎていて、正直僕、ちょっと疲れてます。状況がめまぐるしすぎて。

── CDジャケットの仕事というのは珍しくなっていますよね？

五木田	数えるほどしかやってないですね。テイさんとの仕事は『94-14 covers』が最初で、その後のオリジナル・アルバム（『CUTE』）とシングル（『SOUND OF MUSIC with UA』）と続けてやらせてもらってますけど。
テイ	だから今回のMETAFIVEのジャケットに関しては、五木田君じゃないほうがいいのかなって思ってたんだけど、小山田君からも「五木田さんがいい」とリクエストがあって。
五木田	なんかの機会に小山田さんに会ったときも、直接「やってくださいよ」と頼んでもらいました。そのときも酒を飲んでいたので、「やりましょう！」と即答して（笑）。
テイ	最初はロゴをやってもらったんだよね。ステッカーとかTシャツをつくりたくてお願いしたら、いきなりバッチリなのがあがってきて。
五木田	あれはひさびさにパソコンにかじりついてやりましたよ。定規を使って手で描いたものをスキャンして、延々とエッジをまっすぐに調整していって。そんなの最初っからパソコンで描けばいいって話なんですけど、どうしても癖で。テイさんの『CUTE』も木炭なので、すごい時間かかってますね。ちょっとでも手で擦っちゃったりすると、あぁ消えちゃったっていう、かなり神経を遣う作業なんで。

── 『META』の絵の作画時間というのは？

五木田	これは早かったです。アナログよりもふたまわりぐらい大きな紙にアクリルで描いてくんですけど、たぶん……1時間ぐらい？
テイ	そうなんだ！

── アート・ディレクター・テイトウワからの発注というのは？

テイ	これは自分のアルバムにしてもMETAFIVEにしてもそうなんだけど、その時点で完成している曲といっしょに、タイトルやワードを投げるぐらい。たとえば「これこれこういう絵を描いてくれ」ってお願いすることもできるんだけど、それは五木田君のアーカイヴから「選んでいる」ことになっちゃうし、自分も驚くことができなくなっちゃうので。逆に僕にきた仕事の場合は「どの曲聴いてオファーしてきたの？」って訊くタイプなんだけどね（笑）。……『META』のジャケットをお願いしたときって、もうアー写はできてたんだっけ？
五木田	まだ見れていなかったですね。
テイ	あれは最初、小山田君から「みんなで1枚のシーツをかぶったらどうか」というアイデアが出たんだけど、でもそれって工場のオバサンでも誰でもいいわけじゃない？（笑）。ただ、そこからみんなでひとつのアイテムをつけようというアイデアが出て、アクリルでアイガードをつくることになって。

── あのアイガードはかなりメタ感に貢献してますよね。五木田さんの絵にしても、ちょっとロキシー・ミュージックっぽい匿名性があるというか……

五木田	それ、みんな言いますね（笑）。

── モデルの女性を起用した、「誰なんだろうこれ」というイイ女ジャケ。左乳首が出てるところなんかも……

五木田	出てる？　乳首ってつもりはなかったんだけどね（笑）。

── 失礼しました（笑）。

五木田	ロキシー・ミュージックっぽくなったのは、単純に自分が女好きっていうのもあるんだけど（笑）、やっぱり音からのインスピレーション。初めて曲を聴いたときに、LEO君とか幸宏さんの声が（ロキシー・ミュージックのボーカリストの）ブライアン・フェリーみたいに聴こえて。
テイ	あの絵は幸宏さんも開口一番「カッコいい！」って喜んでましたね。だから文字を置くのかどうかというのも迷ったんだけど、ある種広告っぽい雰囲気を出したかったというのもあって、置くことにして。五木田君も「今回はあったほうがいい」って言ってくれたし。……僕はもっと太い、ボールド系のフォントを使うことが多いんだけど、今回はかなり細め。幸宏さんからも「もっと細いほうがいい、顔と文字のスペースももっと開けよう」みたいな具体的な意見がきて。
五木田	今って世界的に文字のないジャケットというのがメチャクチャ増えてるじゃないですか。でも、自分は昔のレコード・ジャケットもすごく好きだから、今回はあったほうがいいなって。文字に関しては全面的にテイさんを信用してました。ほかのアーティストの仕事では、せっかく描いたのにデザインで台無しにされるようなこともあったり、自分がデザインまでやる場合も、「もっと文字を大きく」なんて直しが入って、「じゃあやめますよ」なんて揉めたこともあるんですけど、テイさんやMETAFIVEの仕事に関しては、そういうストレスがまったくない。みんなが喜んでくれるし、本当にスムースにいく。すごく気持ちのいい仕事ですね。
テイ	やっぱりバックボーンやボトムがいっしょというのは楽ですよ。五木田君はお兄ちゃんの影響でYMOも聴いてたし、ディー・ライトも買ってくれてたし、僕も五木田君のファンだったわけで、話さなくても通じる部分が多い。湯村（輝彦）さんとか横尾（忠則）さんとか大竹（伸朗）さんが好きなんだろうなっていうのは作品を見ればわかるし、日本のアーティストに関しての好みはかなり重なってると思うな。

── いっしょにやるべくしてやっている。

テイ	そう。縁というかね。たとえ20年前から知ってても、離れる人は離れちゃうものだからね。

── ただ、テイさんの作風と五木田さんのそれというのは、かなりテイストが違いますよね。テイさんはいわばインテリア的でスクエアなサウンド、いっぽう五木田さんはインテリアとしてはかなり収まりが悪いというか、ドロッと曲線的なアートであって、なぜふたりの仲がいいんだろうと不思議に思う人もいると思うんですよ。

五木田	インテリアとして収まりが悪いというのはすごくわかる（笑）。どうしてもどこかおどろおどろしい作品になっちゃうんで。
テイ	でも、インテリア的なサウンドにインテリア的なアートというのは食い合わせとしてつまらないでしょ。最近思うのは、アートとサウンドって、そこまで合わせる必要はないんじゃないかということ。イラストとか写真の場合は合ってないとマズいと思うけど、アートの場合は意外性や摩擦の部分にこそ価値が出てくるものだと思うし。

── かといって完全に乖離しているわけでもない、ギリギリの均衡が気持ちいいわけですよね。

テイ	そうじゃないものにはあまり興味がないですね。
五木田	そういう感覚は自分もすごくよくわかりますね。さっきも言いましたけど、自分はデザインをやっていた時期も長いので。
テイ	ただ、サウンドがアートに影響されるってこともあるんだよね。ジャケットがあがってくるタイミングって、アルバムの制作も後半戦にさしかかった頃なので、バリーのペンキの塗り込み加減を見たり、草間（彌生）さんのドットの間隔を見ることで、それが音に反映される。五木田君の絵を見たときは、ちょっとブルータルなタッチが音に出る。だからまったくキャリアのない人が五木田君にお願いするのは危険だと思うよ。絶対に音が負けちゃうから（笑）。

── アートとサウンドが対等に戦っている状態。

テイ	アートにサウンドの答えが描かれているわけじゃないにしても、そういう相互関係って、すごくハッピーなことなんですよ。

2015年1月21日、処女作『META』を発表したばかりのMETAFIVEは、EXシアター六本木で圧巻のライヴ・パフォーマンスを繰り広げ、観客たちを大いに沸かせた。その映像を収めた『METALIVE』の発売を控えた今、6人のメンバーはあの日のことを振り返りつつ、METAFIVE独自のライヴ論を語る。

リハーサルはやりすぎないほうがいい

── 『METALIVE』に収録されているライヴは、『META』の発売直後ということもあり、その中のオリジナル曲をEXシアター六本木のような規模の会場で披露するのは初めてだったと思いますが、ライヴ後、みなさんの感触としてはどうでしたか？

高橋	後で映像で見たら、思ったより問題はなかったけど、アンコール前に楽屋へ戻るときに、何箇所間違えたとかみんないきなり反省していたよね（笑）。
砂原	あと、本番前にステージで通しリハを2回もやったから、「ちょっとリハをやりすぎたね」って話をしたんですよ。
テイ	リハでもう疲れちゃった。
小山田	しかも、本番よりリハのほうが良かったんだよね。
高橋	そんな話を僕らはしていたけど、リハも本番も聴く側からしたらそんなに変わらなかったのかもしれない。
小山田	初めて後ろのスクリーンに映像を入れてフルな形でライヴができたので、お客さんにはあの時点での完成形を見せられたんじゃないかな。

── 小山田さんはコーネリアスのライヴでも映像を使っていますけど、METAFIVEのライヴではそれとはまた違う映像の見せ方なんですか？

小山田	コーネリアスのライヴでは、映像作家の人といろいろ打ち合わせて、音とシンクロした映像を事前につくるんですけど、METAFIVEがEXシアターでライブしたときは中村勇吾さんがVJをやっていて、彼が手動で音に映像を合わせていたんです。だから、映像に関してはお任せで、ライヴ当日に初めて見ましたね。ただ、その映像のおかげでライヴがすごい世界観になっていて、よかったなぁと。
砂原	僕も映像はよく把握していなくて、ライヴ中ですらどんな映像が流れているのかよくわからなかった（笑）。なので、『METALIVE』を見て、初めて知りましたね。とにかく、あのライヴの最中は「暗くて手元が見えないなぁ」と思いながら演奏していた記憶があります。

── リハーサルは、ライヴ当日の前にも何度か行ったんですか？

高橋	何日間かやりましたけど、リハはわりと順調に進んだかな。
砂原	何回か繰り返していくうちに、おかしなところは自然と修正されていったというか。
テイ	幸宏さんがドラムを叩く曲、歌う曲、その両方をやる曲、という具合にクラスタを決めていきましたよね。
高橋	ステージ上をあんまり行ったり来たりするのも大変だからね……。
砂原	その後もライヴを何回かやっていますけど、あのときの曲順がベースになっていますよね。
テイ	でも、最近はリハをあんまりやらないほうがいいかなって。
砂原	飽きちゃいますからね。
高橋	ただ、あれからMETAFIVEのライヴはどんどん変化していて、生（ナマ）度が増えているよね。そのうち、僕はずっと後ろでドラムを叩きながら歌うようになっちゃうかもしれない（笑）。まあ、それもシンドイから、たまに休みたいとは思いますけど。
砂原	これだけメンバーがいるので、あんまり機械任せにするのもどうかなと。自分の手で演奏するほうが、毎回違う印象のライヴになって、新鮮さが出てくると思うし。
高橋	しかし、『METALIVE』のライヴをやる前までは、こんなライヴ・バンドになるとは思わなかったね。
LEO	ライヴはやっぱり肉体的なものなので、テンションは上がりますよね。で、みんな音源をただ再現しているだけじゃなくて、曲という土台の上で遊んでいる感じというか。

起こりうるライヴ中の大トラブルとは？

── 『META』のリリース前に取材したときに、幸宏さんが「基本的にLEO君がメイン・ボーカルですから」と言ったのに対して、LEOさんはややプレッシャーを感じているようでしたが、EXシアターのライヴでは気持ち良く歌い上げているようにも見えました。

LEO	それならいいんですけど……。
高橋	最近は「METAFIVEのボーカルはオレですから」って感じだよね（笑）。
砂原	でも、LEO君はいつもライヴが終わると、誰よりも先に「あそこ、間違えちゃった……」みたいなことを言って反省してるよね（笑）。
LEO	そうですね。それと、実はあのライヴで「Whiteout」のときに、ウケ狙いのパフォーマンスでステージ上のライトに寄りかかったら、ビビビッて感電したんです。一瞬、本当に死んだかと思いました……。
砂原	それは全然気づかなかったなぁ。
高橋	本当にホワイトアウト状態になったと（笑）。
LEO	「Whiteout」のVJはすごくカッコいいんですけど、ステージ上のメンバーに照明が当たっていなかったから、『METALIVE』で見ても僕の感電シーンは全然わからなくて……。
高橋	そういえば、LEO君はあの曲でサングラスをかけていたけど、リハで「何風のつもり？」ってツッコまれていたよね（笑）。
テイ	シャーデー（・アデュ）風とか言ってなかったっけ？
LEO	男性版シャーデーを目指したというか。まあ、シャーデーは別にグラサンをかけていないんですけど（笑）。
小山田	最初、テイさんのサングラスをかけるって言ってなかった？　そのアイディアはちょっと面白いなと。
LEO	リキッドルームでのライヴ（1月14日に行われた「pre-METALIVE 2016 ～『META』RELEASE party」）のときは自分のサングラスを持ってこなかったから、テイさんのものを借りたんです。とにかく、「Whiteout」のスムースでジャジーなムードに合わせようと思って、その曲だけサングラスをかけてハンドマイクで歌ってみたんですけど、EXシアターでは照明が当たっていなかったから全部ムダになった……。

── ゴンドウさんは、あのときのライヴはどうだったんですか？

ゴンドウ	僕は楽しかったですよ。
砂原	「僕は」って（笑）。
高橋	他のメンバーが楽しくなかったみたいじゃん（笑）。
ゴンドウ	僕はオケを出す担当なので、コンピュータがちゃんと動いているうちは本当にリラックスして演奏できるんです。
テイ	今までMETAFIVEのライヴで、コンピュータの大きなトラブルはあった？
ゴンドウ	まだないかな。
高橋	一応、2台回しているんだっけ？
ゴンドウ	そうですね。
小山田	逆に楽しくないときというのは？
ゴンドウ	Macが安定しないときかな。だから、コンピュータの調子さえ良ければ楽しいんです。
高橋	なんて投げやりな（笑）。
砂原	でも、ゴンちゃんの気持ちはわかるな。例えば、リズムがズレたりすると、他のメンバーが「ナニナニ？　どうした、どうした？」って感じになるからね。
ゴンドウ	そうそう、「あれ？　何が起こったの？」って。
小山田	そうなると、みんなゴンちゃんのほうを見る（笑）。
ゴンドウ	別に僕は何もしていないんだけどね……。
高橋	昔、YMOのライヴのときに、松武（秀樹）さんが機械で何をやっているのか他のメンバーはよくわかっていなかったから、そういうことが起こると一斉に僕のことを見たなぁ（笑）。
砂原	当時の映像を見ると、そういうときの幸宏さん自身は「え、オレ!?」みたいな表情をしてから、松武さんを見るんですよね。
高橋	そうそう。
ゴンドウ	で、松武さんは誰を見るんだろう？
小山田	機械を見るんじゃないの？（笑）
高橋	そうなった場合、松武さんは途中からパンチインしてくるんだけど、それに合わせられるわけがないから、僕が「いらないです、いらないです！」とか言ったりね。そういえば、あるライヴの1曲目にやった「ライオット・イン・ラゴス」の途中で、いきなり機械が止まったこともあったなぁ……。

── METAFIVEのライヴでは、突然中断してしまうようなトラブルはこれまで起こっていないんですよね？

砂原	まだないけど、今後はわからないと思います。
ゴンドウ	コンピュータが止まっても、ある程度は続けられるかもしれない。
砂原	まあ、曲にもよるけどね。ドラムがマシンだと……。
小山田	無理だろうね。でも、幸宏さんがドラムを叩く曲なら、なんとかなるかな。
テイ	コンピュータが止まったら、アコースティック・バージョンにするとか？
LEO	あるいは、途中からアヴァンギャルドな展開にしてみたり。
高橋	そうなったら、もうアンビエントにするしかないよね（笑）。

即興的パフォーマンスがもたらす変化

── ただ、テイさんのパフォーマンスは『METALIVE』を見てもすでに即興性が強いように思います。

テイ	そうですね、メンバーの中で一番テキトーというか。しかも、みんなクリックを聴いているけど、僕だけ聴いていない。
砂原	そうなんですか!?
テイ	一切、聴いていない。つまり、DJのときと一緒で、外で流れているバンド全体の音を左耳で、自分でやっていることを右耳で聴いているんです。
高橋	そのわりには、ぴったりと合っているよね。
テイ	最初の頃、ミキサーの回線が止まっちゃったこともあったけど、みんな僕をスルーしてもらっても、ライヴを続けられるんですよね。そういう意味では、METAFIVEのライヴは気楽ですね。
砂原	あと、テイさんがドラムのほうに歩いていってシンバルを叩くシーンが『METALIVE』で出てくるじゃないですか。ライヴ中に全然気がつかなかったんですけど、あれがすごく面白かった（笑）。
テイ	やることがなかったんだよね。
高橋	でも、リハでテイ君に「このタイミングでシンバルを叩いてもいいですか？　僕、子どもの頃に鼓笛隊をやっていて……」って相談されたよね（笑）。

── さらに、テイさんはビデオを回し、その映像がスクリーンに映し出される場面もありました。

テイ	あれも、他にやることがなかったからね。
砂原	合わせ鏡みたいに、ループしている映像が良かったなぁ。
テイ	フィードバックといって、ギターのフィードバックと同じ原理を使ったエフェクトなんだよね。例えば、小山田君にカメラを向けると、小山田君がずっと連なっているような映像になる。
砂原	テイさんがビデオを回した中だと、ゴンちゃんの笑顔のどアップがスクリーンに映し出されて曲が始まる場面も笑えたね。
LEO	ああ、「W.G.S.F.」ですね。
高橋	たしか、その直前のMCで僕が「ゴンちゃんが最初に作った曲をやります」って言いながら、あの曲はそもそもゴンちゃんがかなりラフなデモをみんなに聴かせてシーンとなったことを思い出して、笑っちゃったんだよね。でも、『METALIVE』ではそこがカットされているから……。
砂原	ゴンちゃんがなぜか一人でニヤけているように見える（笑）。
テイ	そんなゴンちゃんのどアップも含めてビデオは即興で撮っていたわけだけど、思えばディー・ライトの頃は事前に「タカドン、タカドン」みたいなキメをつくって練習したり、シーケンサーで流せばいいフレーズを無理やりキーボードで弾いたり……。それがすごく嫌だった。でも、今のMETAFIVEのライヴで僕は即興がほとんどで、キメなんてまったく考えていない。
高橋	だから、毎回ライヴが変わっていっているんだよね。
テイ	まあ、テクノロジーの進歩によって、そういうことができる時代になったともいえるんですけどね。そのおかげで、ライヴ中にショートメールもチェックできるし、『METALIVE』ではヘンなタイミングで水を飲んでいる（笑）。ライブ中の僕はそんな感じだけど、LEO君は即興で歌詞を変えたりしていないの？
LEO	歌詞は変えるというか、間違えることはありますよ（笑）。『METALIVE』でも間違っている箇所が若干あって……。

ライヴはいつも進化している

── ところで、『METALIVE』ではオリジナル曲だけでなく、YMOのカバー曲も聴くことができますよね。

高橋	「Radio Junk」は、本当はYMOの曲じゃないんですけどね。
砂原	幸宏さんが作曲したシナロケ（シーナ＆ロケッツ）の曲ですよね。
テイ	ただ、YMOもライヴでやっていた。
砂原	だから厳密に言うと、YMOのカバーは「Key」と「Cue」だけかな。2年前の最初のライヴと比べれば、だいぶYMOのカバーは減りましたよね。
テイ	あと、ライヴでずっとやっている「Turn Turn」はスケッチ・ショウの曲だよね。
高橋	あれはもはやMETAFIVEの曲みたいになっているね。
ゴンドウ	やっぱり、ウチらでカバーすると、METAFIVEの音になっていく気がする。
小山田	でも、それは曲によって違う気もして。例えば、「Turn Turn」なんかはすっかりMETAFIVEっぽくなっているし、「Radio Junk」もそうなってきていると思うけど、「Key」はどうしてもYMO臭が残るというか……。
テイ	「YMO臭」って（笑）。オリジナルが完成されているから、崩しにくいのかも。
小山田	METAFIVEに馴染むかどうかは、実際にカバーしてみるとわかるんだよね。
砂原	「Key」は他の曲とリズムの取り方とかがちょっと違うのかなぁ。でも、「Radio Junk」はすごくしっくりきた。

── EXシアターの後も何度かライヴをしていますが、今、『METALIVE』であのときのライヴを振り返ると、未熟に感じたりもするのでしょうか？

砂原	最近のライヴと比べると、やっぱり演奏がちょっと固いよね。
小山田	うん。あのときは、『META』を作ってから2本目のライヴなのに、ワンマンだし、『METALIVE』のために撮影することも決まっていたし、結構ハードルが高かったんじゃないかな（笑）。普通、ベストテイクになりそうなツアーの最後のライヴを撮影したりすると思うけど、覚えたての曲をいきなり完成形にしてライヴしなきゃいけなかったわけだからね。
LEO	ただ、僕はもっとライヴをやりたい気持ちになりました。しかも、ライヴを重ねれば重ねるほど、その意欲が増してきて。
砂原	まあ、やっぱり慣れは大事だね。最近はライヴにだいぶ慣れてきたかな。
ゴンドウ	まりんは6人の中で一番練習している気がするからね。
砂原	いやいや、僕は一番ヘタなので（笑）。
小山田	でも、いくら練習とかリハをしたところで、本番になると、いろんな事情でなかなか思い通りにはならないよね。自分一人の出来栄えが良くても、他のメンバーの演奏に影響されたり、会場にお客さんが入って音が変わったりするから。その諸々が偶然噛み合って素晴らしいライヴになることもあれば、すべてかみ合わないままライヴが終わっちゃう場合もあって。
テイ	まあ、そのスリルが面白くもあるんだけどね。

── 今年の夏はフェスにもいくつか出演する予定ですが、ワンマンのライヴとはまた違うものになりそうですか？

高橋	フェスは楽しいんですけど、ワンマンと決定的に違うのはリハができないこと。一発勝負なので、いつもそれが怖いですね。思ったのと違うモニター環境だったり、それこそ途中で止まったりしたらどうしようと……。
LEO	野外だと風に影響されることもありますよね。
砂原	雨も降ったりするし。
小山田	さらに、台風が来て暴風雨の中でライヴしたこともあった（笑）。

── 2014年のWORLD HAPPINESSでのライヴですよね。

砂原	そうそう。強風のせいでMacのディスプレイが勝手に閉じたんですよ！
高橋	今となっては印象深い夏の思い出ですけど、今年のフェスでまたああいうことを体験するのは嫌だな……。それはともかく、さっきも言ったようにライヴがあるたびにみんなの演奏はちょっとずつ変化しているので、今年1月のEXシアターでのパフォーマンスと比べたら、今のMETAFIVEはかなり進化していますよ。

（取材・構成＝中矢俊一郎）

METAFIVEのライヴにすでに欠かせない存在となっているのがウェブデザイナー／インターフェイスデザイナーの中村勇吾のVJだ。最小限の要素とエフェクト、生きているようなキネティック・タイポグラフィ。観る人の目をステージに釘付けにするその映像の数々は、はたしてどのように生まれたのか。『METALIVE』の裏側に迫る。

クラフトワークのライヴで気付いたVJのやり方

── 今回のMETAFIVEの映像は、2014年11月に日本未来科学館で行われた「攻殻機動隊ARISE」の関連イベント「GHOST IN THE SHELL ARISE“border:less experience”」からの連続性を感じさせました。あの時もVJが中村さんでしたね。

小山田	あの時がVJ初めて？
中村	そうです。
小山田	salyu×salyuもやってもらったし、METAFIVEも初めてやってもらって。
中村	嬉しかったですよ。
小山田	僕もすごい嬉しかった。

── 中村さんは初めてのVJをどのようにしようと考えていたんでしょうか？

中村	僕はクラブとかにほとんど行かないんで、気合一発のVJとか見たことなくて。たまに見ると、カシャカシャって映像が入れ代わり立ち代わり、5分後またこれ来たーみたいな。VJってそういうことしなきゃいけないのかな、やり方よくわかんないなと思ってたんです。映像の素材もないのでどうしようかなって時に……ド忘れしたんですけど、テクノの重鎮の、元祖の、おじいさんの、4人組。
小山田	クラフトワーク？（笑）
中村	それです（笑）。クラフトワークのライヴに行ったんです。4人立ってる後ろに、最初からプログラムされた映像がバーンと流れてて、わりとすごい全部お膳立てされてるライヴだったんですよ。僕は素人ながら、このおじいちゃん4人は何やってんのかな、本当に弾いてるのかな、とか考えてて（笑）。バックの映像は発色が綺麗な、ジェームズ・タレルっぽい、わりと1曲ずつ作りこんだもので、「あ、こういうのだったらいいんじゃないかな」って、そういう風に考えてました。VJと言いながら、映像の展開をちゃんと作ってやるみたいな。

── 今回のVJの実作業はどこまでがリアルタイムなのか？は観ていて知りたくなりました。

中村	最初の「攻殻機動隊ARISE」の時はライヴ的にやってたんです。一応プログラムを組んでリアルタイムで動くようにしてて、聴きながらトン、トトトン！って押してたんですけど、全然リズムを追えないことがわかって（笑）。あの、salyu×salyuのタン・タ・タタタタって曲……。
小山田	「s(o)un(d)beams」だ。
中村	あの曲、リズムがものすごく変則的なんですよ。で、リアルタイムは無理だってわかった（笑）。それで次からは、ほぼほぼ作りこむって切り替えたんです。3、2、3・2・1・ハイ！ってキーを叩いたら、もう（腕を組むポーズ）。
小山田	（笑）。
中村	たまにちょっとズレてるかな、ってなったらちょっと遅らせたりして。だから小山田さんに最初、ライヴの演奏ってどれくらい揺らぐんですか？って聞いてたんですけど、「全然揺らがないよ」ってことだったんで。
小山田	METAFIVEは基本、クリックを聞いて全部同期モノと一緒に演奏してるんで、絶対ズレないんですよ、演奏は。だからそういうのと親和性が高いっていうか。
中村	だから安心してできました。準備がすべて。
小山田	でもリハでテンポを1ズラしたっていうのを勇吾さんに言うの忘れちゃったりしてて。
中村	「あれ、なんか今日いつもよりズレるなあ」って（笑）。BPMを1速めてたのか……って。でも広い会場だとあってるかわからないんですよね。一番後ろで観てるから。EXシアター六本木だと、前と後ろで100mくらい距離がありますよね。音速（音楽）と光速（映像）のスピードの違いを考慮してなかったから、ナマの音を聴きながらだと、あとから観て2フレームずつズレてたり。「そうか、音速を考慮するの忘れてた」って。

── ヘッドホンはされないんですか？

中村	ヘッドホンをするって概念があまりなかったんです（笑）。クリック音の意味をわかってなくて（笑）。音楽とミックスされてわからなくなるからナマがいいなってやってたらズレてた（笑）。
小山田	パッと見はわからないよね。
中村	結構ジャストで作ってたから、じゃあどのオーディエンスに向けてジャストで作ればいいんだろう？って思って、一番熱気がある人は一番前の人だろうから、ちょっと早めに出せばいいかなとか、そういう調整をやってました。

METAFIVEの音とよくあってるなと思う

── METAFIVEのメンバーに「中村勇吾さんでどうか」と提案した時、どんな反応でしたか？

小山田	みんなめちゃめちゃ喜んでました。
中村	僕、砂原さんの昔の「LOVEBEAT」のビデオを社会人なり立てくらいに観てて、当時すごく新鮮でした。幾何学的なものが動いてるだけで成立する。そういうのを観てたんで、METAFIVEの話をいただいた時は「砂原さんもいる」って興奮しました。
小山田	模様が動くヤツだよね。あれは小島淳二（teevee graphics）さんかな。
中村	METAFIVEでも「Luv U Tokio」の映像をやってましたね。
小山田	死刑！ってヤツね（笑）。
中村	とにかく「LOVEBEAT」の映像は好きでしたね。まだ映像の仕事はしてないのに「なんか知らないけどやられた！」って思ってました、当時。久しぶりに観直したら「やっぱいいなあ」って。
小山田	勇吾さんはまりんのソロとすごく合いそうだよね。

── 幾何学的なもので成立させるという方向性は勇吾さんと親和性が高そうです。

中村	僕はあまりそれ以外できないっていうのもあるんですけど（笑）。なんかこう、PVって観てると音楽があんまり聴こえない。聴覚より視覚のほうが強いから、もっと（映像が）弱いほうがいいんじゃないかと常々思っていて。理想を言うと、音楽の聴き方にちょっとだけ補助線を与える、グリッドを与える、そういうのがいいんじゃないかと。
小山田	説明しすぎてないところがいいなと思ってて。あと勇吾さんの映像は動きが気持ちいいんですよね。生きものじゃないのが生きてるみたいな、あの感じがいいなあって。やっぱ最小限で、シンプルで、グラフィカルなもので、METAFIVEの音とよくあってるなと思う。今回のはすごくハマったなって感じがします。

── フォントの選択も小山田さんの好みと合うのでは？

小山田	そうなの、何も言わなくてもわかるから。
中村	とりあえずHelveticaじゃねえの？みたいな（笑）。とくに理由もなければって（笑）。
小山田	（笑）余計なことをしないっていうね。
中村	余計な回路がないですね。
小山田	それでちょっとだけ気が利いてるっていうのが、しっくりくるんだよね。
中村	フォントのこととか考えたくないんですよね。フォントって一杯あるじゃないですか。真剣に考えようとしたら答えなんていつまで経っても見つからないから、やっぱHelveticaでいいんじゃないかって（笑）。そういう感じじゃないですかね。みんなも良いって言ってるし、って（笑）。
小山田	「みんなも良いって言ってるし」（笑）。名言だね（笑）。
中村	（笑）やっぱり僕はグラフィックデザインをそんなに経てないし、変数を増やすと制御できなくなるなっていうのがあるので、使えるセットは制限したい。「おやつは300円まで」の中で考えるほうがやりやすい。自分の腕なりのセットを組んでるんですよね。VJの映像はうちの事務所（tha ltd.）のみんなで作ってるんですが、1曲1アルゴリズムって決めて、そのアルゴリズムで1曲ぶん5分はもつもの、ってルールでやってます。

── 映像で物語を作るわけではなく、一歩手前の生理的な気持ちよさへのこだわりを感じます。

中村	歌詞とかって実はあんまり読まない。こんなにやっててもどういうことを言ってるのかわかってないんです。「Turn Turn」は回るんだろうとか、「Whiteout」っていったら雪じゃないか、とか（笑）。うちの事務所で3～4人で作ってるんですけど、みんな歌詞を理解してないと思います。音の感じと、タイトル。

ここまで何も言わないでも大丈夫っていうのがすごい

小山田	「Turn Turn」は最近までみんな気づいてなかったんだけど、地球が回る中にいろんな画像が出てくるところで、サブリミナルで各メンバーのアルバムのジャケットが入ってるんだよね。
中村	そうなんです。もともとは「攻殻機動隊ARISE」の時のために作った映像で、あの時は日本未来科学館でやったんですけど、未来館に地球儀があるんですよね。それを草薙素子がハックしたって設定で、地球儀がハックされた映像を作ってたんですよ。それを「Turn Turn」だから回そうって。その時は「攻殻機動隊」の画像を入れてたんですけど、それが終わったから、次はみなさんのアルバムを入れるのが面白いんじゃないかって。

── 「Albore」の平面分割の映像は見覚えがありました。

中村	あれはsalyu×salyuで使ったのを持ってきて再利用してます。この曲に合ってるんじゃないかなって。実は途中まで別のものを作ってたんですけど、よくなる兆しが見えなくて。だから発想を変えたんです。
小山田	たしかsalyu×salyuの「奴隷」って曲で使ってたんだよね。salyuはもうやってないからもったいないもんね。
中村	曲の感じというか、salyuで「んーー……きらい！」ってあるじゃないですか。そこと似た瞬間があったんですよ、「シャカ！ッシャカ！」ってところ。あ、これじゃない？って。

── リズムがはっきりしたもののほうが作りやすいっていう好みはあるんですか？

中村	構造がはっきりしてるもののほうがやりやすいってことはあるんですけど、それだと意外と相乗効果的なものが出ない感じがありますね。ちょうどすぎるというか。METAFIVEは、小山田さんのソロと比べると、いろんな音が鳴ってますよね。だから難しいな、どのグリッドにタイミングをあわせるのかなって思ってたんですが、音と映像を一緒に流してみると、作ってる人間が観た感じでは、面白い。「Whiteout」はまさにどういう構成……？って悩みながらやってましたけど、何かしら出会いがあったり、なかったり。

── バックにメンバーの演奏シーンが使われている時のVJチームの役割は？

中村	なんとなくエフェクトをかけてます。カメラで撮って出すとどうしても時間差でズレちゃうんですよね。最初は機器を変えてズレにくくしたんですけど、やっぱりズレるなって思いながら、残念な顔をしながらステージを見てます（笑）。
小山田	Blu-rayではかなり修正してるんだけどね。カメラで撮った映像を音にあわせて。そこを直さないと気持ち悪いんだよね。鳴ってる音と全然違うっていう。
中村	そうなんですよ、ドラムの演奏してるところとか、すごく。あとテイさんが手元のビデオで撮ってる時って、俺らはわかってるけどみんなはわかってるかな？って心配したりして（笑）。テイさんにスポットライト当てたほうがいいんじゃないか？って、会話をしてます（笑）。

── 全体的に色をあまり使わないというのは打ち合わせたわけではないんですか？

小山田	何もないよね。
中村	そうですね、見事に何もない。
小山田	「よろしく。以上」って。
中村	ステージ上のモニターで見てもあんまり伝わらないというか、人に投射されて、下の方はふわふわっとしてるっていう設定で作ったので、メンバーに確認する時に、どう見せようかな、ここらへんの雰囲気も見せたらいいのかなって思ってたら、もうナマでいきなり、事後確認っていう。小山田さんだけ、リハーサルでギターを弾きながらスクリーンを見てて、「ちらっと観たよ」ってあとで言われたんですよね。「いいじゃん」「ありがとうございます」って。
小山田	演ってる時しか見れないから。他の人は鍵盤だから手元を見なきゃいけないとか、ドラムだったり、歌わなきゃとかで、後ろを振り向く余裕がたぶんなくて。僕はギターだったから結構見れるんで。でも演奏してるから全体はあんまりよく見えないし、ちゃんと観たのは今回のBlu-rayで初めてなんですよ。

── じゃあ他のメンバーの方も全員Blu-rayでようやく勇吾さんのVJの全貌を観たんですか？

小山田	たぶんそうだと思う。僕よりそうだと思う（笑）。自分のことをやる時に、ここまで何も言わないでも大丈夫っていうのがすごいなっていうか。信頼はすごい置いてるので。
中村	結構時間がギリギリで作ってるっていうのがあるので、見せ始めたらややこしくなっていたかもしれないですね。
小山田	でも丸投げで安心できるっていう。

── 小山田さん以外のメンバーに感想は聞けました？

中村	あんまり……やったあとはシュッと帰るんで。
小山田	打ち上げとかも来ないもんね。
中村	いや、楽屋とか行くとちょっと緊張するんですよ。「楽屋だ……ドラマとかで見るやつだ」って（笑）。なんかこう、終わった後って、綺麗なお姉さんと話してたりするじゃないですか。そこにまさか「VJどうでした？」なんて聞きにいけないですよ（笑）。しかも後ろの映像を見れてない人達に（笑）。「あれ、そんなに話すことないな……帰るか」って（笑）。一応、小山田さんには「まあまあイケました！」って報告に行ったんですけど。あとはあんまりやることないなって（笑）。
小山田	でもみんな大絶賛だったよ。まりんはとくに。

作りこむ作品とライヴの違いとは？

── 勇吾さんは今後LIVE VJの仕事が増えていくんじゃないでしょうか？

中村	どうでしょうね、面白いことができる仕事ならぜひ、って感じです。
小山田	勇吾さんはMETAFIVE以降、VJは他にやってないの？
中村	やってないですね。VJらしきことでいうと、ISSEY MIYAKEの三宅さんが青森大学の男子新体操部を気に入ってて、その男子新体操部が踊る公演のライヴ演出みたいなのはやりました。新体操のコートにプロジェクションマッピングで、着地するとパッとインクが飛び散る、みたいな感じの。ただ、ライヴものは緊張しちゃうんですよね。僕らの同業でRhizomatiksというグループがいて、代表の齋藤（精一）さんに「ライヴって緊張するんだけどどうやったらいいの？」って聞いたんですよ。そしたら「失敗した時のバックアッププランを完璧にしたら緊張しない」って言われて。100か0かでやったらメンタルがもたないからそれはダメだ、って言われて、「そっか！」って（笑）。

── 勇吾さんが普段やっているウェブの世界は、始まりがあって終わりがあるって映像作りじゃないので、音楽の映像の作り方とはだいぶん違っていますよね。

中村	やっぱり僕はライヴものよりは編集ものが好きなんです。ちゃんと作りこんだもの。音楽でも、ライヴに行くより作品、これがベスト！ってちゃんと作られたものを出されたほうがいいっていうか、詰め切れてないと気持ち悪い。そういうのって小山田さんにはないですか？　ライヴをやるのとアルバムを作るのでは違いますよね。
小山田	うーん、別物ですよね。ライヴのほうがやった感がある、仕事した感じしないですか？　「オレ働いたな」って気分になれるっていうか（笑）。レコーディング作業だと今日もこれくらい進んだなって、終わりもないし。ライヴは今日は働いたぞ！ってなる。
中村	たしかに、打ち上げ感が違いますね。うちの会社もみんなまったりと編集的なことをし続けてて、盛り上がったりはしないんですけど、「攻殻機動隊ARISE」の時が初めてライヴ感ある感じだったんですよ。流石にみんな盛り上がって、仕事のあとに居酒屋とかで「イエーイ！カンパーイ！」ってなって（笑）。「あれ、こんな俺らもいるんだ？」って（笑）。
小山田	新しい自分がいたんだ（笑）。
中村	実際の作業はボタンをクリックしてるだけなんですけど（笑）。なんかやったぞ！ってなりましたね。

（取材・構成＝Barbora　&　写真＝江森丈晃）